TokuteiJuku’s blog

特定社労士試験の勉強と受験

第19回の倫理を解いてみました。

 第19回の試験問題が、連合会のWebsiteに載っていたので、試しに第2問(倫理)をざっと読んで解いてみました。その解き方を解説します(模範解答ではありません。)。塾生からの断片的な情報ではなく、問題文を読むと、様々なことが明らかになって、知識のあるなしではなく、条項の意味を深く正確に理解して、事実の分析を緻密にやることを求める、良くできた問題だなという印象を持ちました。

第2問小問(1)

 利益相反の問題ですから、社労士法22条2項の1号、2号、3号のいずれかに抵触するか?をまず検討することになります(4号・5号は組織を移動した場合の条項です。)。次に受任を制限される場合を書いた部分を掲げます。

① 同条同項1号「紛争解決手続代理業務に関するものとして、相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件」

② 同条同項2号「紛争解決手続代理業務に関するものとして相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの

③ 同条同項3号「紛争解決手続代理業務に関するものとして受任している事件の相手方からの依頼による他の事件」

 問題文を読むと、A社代表取締役Bと特定社労士甲の間で、明確に個別労働紛争代理業務の依頼があって承諾したとの記載はありませんから、①同条同項1号だと「相手方の協議を受けて賛助した」かどうかが問題になります。

 二番目に、②同条同項2号だと、「相手方の協議を受けた」かという点と「その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるか」という点が問題になります。

 三番目に、③同条同項3号だと、「受任している事件の相手方からの依頼による他の事件」かが問題になります。

 簡単に分かる③から片付けましょう。Bから相談された事件とCから相談された事件は、いずれもCがA社を違法に解雇されたことの無効を求める紛争であって、「他の事件」ではないので、③は適用できない(抵触しない)ことになります。

 問題は、①と②をどう考えるかですね。問題文を一読すると、A社代表取締役Bは、特定社労士甲に当該予定される紛争の内容について「協議した」けれど、「賛助はしなかった」ので、①は適用できない(抵触しない)と考えて、最後に②をどう料理するかという問題が残ります。特定社労士甲は代理業務の予約契約の申込みを受けてそれを承諾しているのだから、「相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの」と言えそうです。そうすると、「同条同項2号に抵触するから受任できない」という結論と理由になりそうです。問題文の最後の段落の頭に「法律に照らし」と書かれている点からも、これで行けると思うのが普通の受験生で、ここまで書けたら5点を下回らないのかなとの印象を持ちました。

 しかし、これでは余りに簡単すぎるので、何か罠が仕掛けられていないかな?と疑う訳です。与えられた事実から判断して、そもそも、④特定社労士甲はA社代表取締役から「協議を受けた」と言い切れますか?また、⑤その予約契約の締結された状況や内容から考えて「その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの」と言えますか?出題者は、これら④と⑤の点ついての分析を求めているのではないか?と私は考えました。

 私は第16回の特別研修を受講しましたが、その時配布された教材の薄い方のP116以降に「社会保険労務士法の解説(抜粋)」というのが載っています。その一部を次に引用します。

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 同法同条同項1号の解説文の中に『「協議を受けて」とは、具体的事件の内容について、法律的な解釈や解決を求める相談を受けることをいう。』と書かれています。

 また、同法同条同項2号の解説文の中に『これは協議を受けただけでその事件に全く関与できないこととするものではないが、本条一号の場合のように強い助言や事件の処理まで行わなかったにせよ、例えば、秘密に属するようなことまで開示して協議を行う等相手方との強い信頼関係があれば、新しい依頼者の利益を損うことを懸念したものである。しかし、立話程度や抽象的な相談などは、強い信頼関係に基づくものとは言えな。すなわち、本号は第一号と同じく相手方との信頼関係を問題にしているが、第一号と異なり、賛助又は依頼の承諾という要件を欠く場合の要件を補充するものとなっている。』と書かれています。

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 これらを読むと、本問の事実関係では「協議はなされていない」し、「信頼に基づくというほどもこともない」という評価が正しいとうことになり、同法同条同項2号は適用できない(抵触しない)という結論になると思います。

 だとすると、特定社労士は「受任できる」ということになるのか?一般社会の常識として、何か気持ちが悪いというか、違和感がありますよね。

 そこで、社労士法1条の2(公正誠実義務)や第16条(信用失墜行為の禁止)に登場願って、「同法同条同項2号に定められた信頼関係の構築には至っていないうえに、A社代表取締役Bと特定社労士甲の会話が仮に社交辞令であったとしても、Bの立場や世間の眼からみて、甲がCの代理業務を受任すれば。社労士の公正、誠実、信用、品位を害するおそれがあるので、受任すべきではない。」とするのが、出題者の意図した理想の特定社労士の倫理観ではないかと思うのですが・・・。

 

第2問小問(2)

 民法の代理のそれも双方代理の問題だと気づいた受験生は多かったと思います。次に、改正前と改正後の民法108条を掲げます。

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旧108条(自己契約及び双方代理)

 同一の法律行為については、相手方の代理人となり、又は当事者双方の代理人となることはできない。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りではない、

新108条(自己契約及び双方代理

① 同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りではない。

② 前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りではない。

 2項が新設されていることは、すぐに気づきます。問題は、改正前は「双方法代理ができない」と規定されて、一般には禁止されていると解されていました。しかし、改正後は「代理権を有しない者がした行為とみなす」(つまり無権代理とみなす)と規定の仕方が変わっていることです。双方代理をしたときの効果は無権代理だと判例で決まっていたので、実質的に内容が変わったわけではありません。さらに、本問では、労働者Eが事実関係を理解したうえで、特定社労士甲にD社の代理人にもなることを勧めている(許諾している)ので、民法108条を引用して「双方代理は禁止されているから受任できない」とやったら、大間違いということになります。だったら、受任できるのか?

 またまた、気持ちが悪いというか、違和感のある結論になりますよね。そこで考えました。特定社労士乙は、社労士法2条3項に基づいてEの代理人となって調停を申し立てていて、その期間中に相手方D社と和解交渉を合法的にしています。ところが、今、D社が申し込んできたのは、単なる和解交渉(法律行為)の代理人業務であって、社労士法2条3項で特定社労士に許された業務ではありません。問題文をよく読んでください。D社はこの調停の代理人になって欲しいと申し込んで来たのではありません。もしそうだとしたら、社労士法22条2項1号に抵触して受任できません。だから、直接の和解交渉の双方代理を提案したのだと思います。

 結論を書きます。本問で、両当事者の意向として、特定社労士乙が、民法上双方代理が許されるとしても、特定社労士乙がD社の和解交渉のための代理人を受任する行為は、弁護士法72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)に触れる。したがって、特定社労士乙は、D社の代理人となることはできない。

 この問題のコアとなる論点が、双方代理ではなく非弁行為だと気付いた受験生は少なかったと推測します。問題文を読むときに、ついつい目の前の事実に引き付けられてしまうのですが、一歩後ろに下がって、視野を広げて俯瞰的に見てみると、設問の本質というか、出題者の意図が見えてくるのかなと思います。

 今回は、2問とも難問でしたね。しかし、最近続いた会社法の実務的な知識がないと解けないような問題ではなく、法律の条文の正確な解釈を理解し、事実に適切にあてはめる(事実を適切に評価する)能力があるかどうかを確かめる良問だったと思います。でも、新しいタイプの出題で、過去問の勉強だけをして来た受験生(ほとんどそうだと思いますが)に取っては、相当難しかったのではないでしょうか。

 以上は、あくまでも私の現時点での個人的見解であり、最終的には、来年3月の合格発表の時に公表される「出題の趣旨」を見てみないと何とも言えないとは思います。

 今週は忙しいので、第1問は来週解きます。遅くとも、12月10日(日)までには、ブログに記事をアップします。いやあ、連合会がこんなに早く問題を公表するとは、まったく予想していませんでした。