TokuteiJuku’s blog

特定社労士試験の勉強と受験

第19回第1問(労働紛争事例)読んで感じたことと考えたこと。

 ここのところ、公私ともに忙しくて、なかなか第19回第1問(労働紛争事例)を読む時間がなかったのですが、本日、午後、やっと読みました。解答例とその解説を書くには、もう2-3日時間をください。受験生の皆さんは、この試験問題の論点や攻略方法を早く知りたいでしょうから、今日は、問題と設例を読んでみて、感じて考えたことを書いてみます。

 まず、今回の第1問が、民法の「錯誤」を最重要論点とする問題であるということは、大半の受験生が気づいたことと推測します。しかし、その中のどれだけの人が、民法95条(錯誤)の条文の正確な解釈を理解していたか考えると、それが(事前に受験勉強でしっかり準備が)できていた人は、実は少数派だったんだろうなと推測しています。

 閑話休題。私はいつも塾生に言っています。「第1問は、まず小問(1)~(5)の質問文を読んで、出題者の意図を読み取って、解き方や書き方の指示や、回答の射程範囲を理解してから、設例のXの言い分とYの言い分を読みなさい」と。この教えを守っていたら、次のようなことに気付いたはずです。

 小問(2)中に「XのY社に対する退職の意思表示がXの取消しにより無効となり、Xは依然としてY社の従業員であることを主張する場合」と書かれています。次のページに民法95条(錯誤)が引用されていることと併せて考えると、XがY社にしてなした退職の意思表示を錯誤により取り消すのだなということが分かります。過去問から推測すると、労働者Xが上司から懲戒解雇になるかもしれないから、依願退職した方が得だと言われて、それを信じて退職願を書いて提出して、後になって、懲戒解雇の可能性はかなり低かったので、動機の錯誤があるから、あの退職願を取り消して、雇用の継続を求めるという設例だろうなと考えました(実際、Xの言い分を読んだ時点で、このストーリーは確かめられました。)。ということは、民法95条(錯誤)の条文に書かれた「錯誤取消しの要件」を順番に5つ拾っていけば、小問(2)で要求される主張事実になると考える訳です。

① 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤(基礎事情の錯誤=動機の錯誤)が存在する。

② 錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであること。

③ その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたこと。

④ 錯誤について表意者に重過失がなかったこと。

⑤ 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。

 XとYの言い分を読み込んでいない時点で気のなるのは、⑥善意かつ無過失の第三者

の保護規定があるので、この論点について、主張事実を書けるのか?書くべきなのか?の判断ができていないということです。以上の6つの要件については、次回詳しく解説します。そのうえで、主張事実を整理します。参考までに、民法 第1編 総則 第5章 法律行為 第4節 無効及び取消(119条―126条)を読んでみてください、取消権者、取消しの効果、原状回復義務、取消権の期間の制限(時効)などが規定されています。

 そうそう忘れるところでした。錯誤が無効だった改正前の民法と違い、改正後の民法では錯誤取消しになったので、「取消しの意思表示」がないと取消の効果が発生しないということも忘れてはなりません。Xがこれをやったことが、主張事実から抜け落ちていたら、ダメージが大きいですね。

 ここで、一部の受験生は、これを「退職願の撤回」の論点の問題と勘違いしたのではないか?と気づきました。これは、本心から退職願を提出した労働者が後で気が変わって、「やっぱり辞めないから、あの退職願は撤回させてください」といい出したケースであり、この第19回第1問とはまったく違う論点の問題ですから、この論点に沿って回答をしたら間違いです。例えば、安西愈弁護士著「トップ・ミドルのための採用から退職までの法律知識[十四訂]P921に説明があります。まあ、「取消し」と「撤回」の違いを知っていれば、このような間違いはしないのでしょうが、残念ながら、この試験の研修では、法律用語の細かな解説までしていないので、取消し=撤回と間違って覚えている人がいることも致し方ないとは思いますが・・・。ちなみに、法律学小辞典5のP961に「撤回 Ⅰ 民法上は意思表示をした者がその意思表示の効果を将来に向かって消滅させること。一方的な意思表示によってされる点では取消しと似ているが、取消しは一定の取消し原因(制限能力・詐欺・脅迫【今なら錯誤も】)のあるときに限ってでき、また、過去に遡って法律効果を消滅させる点で撤回と異なる。撤回は取消しと違って取消し原因がなくてもできるが、既になされた意思表示によって当事者間に権利義務が生じてしまった場合には、原則としてその意思表示を撤回できない。撤回できない場合でも、その意思表示について別に取消し原因があれば取消できるのはもちろんである。」とあります。

 閑話休題。小問(3)中に「Y社の立場に立って、本件手続において、適法に退職が成立していると主張する場合」とありますから、ここでは、上述の①~⑤を否定する事実を書くことになりますが、直接、これらには該当しないが、「パワハラを防ぐ仕組みを作って教育も徹底して来たのにこの不心得者がパワハラをやってしまったので、会社は免責されるべき」だという主張(何を免責されるのか?錯誤取消しと関係があるのか?)が意味をなすのか?なさないのか?についての検討が必要と考えます。加えて、「⑥の善意・無過失の第三者に人事本部長が該当して、抗弁に使えるのか?」という点も検討が必要と考えます。

 小問(1)と(2)の主張事実を詳細に検討していないので、確定的な判断はできないのですが、おそらくXが強くて、錯誤取消しが認められると考えています(小問(4))。

 とすれば、小問(5)では、Xの復職と解雇期間中の賃金の支払を求める(小問(1)の請求内容)代わりに、改めて懲戒委員会で処分を決め直すことを提案することになると思います。ただし、処分行為の悪質性と処分の軽重の関係が不明確な現在の就業規則の規定をそのまま適用することは不適当なので、諭旨解雇と懲戒解雇は適用せず、K支店長を委員から除外することを条件にします。