TokuteiJuku’s blog

特定社労士試験の勉強と受験

倫理事例問題は社労士法第22条第2項の解釈から始まった。

 

 

 特定社労士試験第1問は労働紛争事例の問題で、今まで述べてきた憲法民法、刑法、民事訴訟法、労働契約法、労働基準法等の知識やご自身の社会経験を駆使して、使用者と労働者の間の紛争を解決するという問題です。一方、第2問の倫理事例問題は、特定社労士の目の前に現れた依頼者の仕事を、現在の他のクライアントや過去の他のクライアントとの利益相反関係や彼らに対する守秘義務から考えて、受任して良いか、それとも良くないか、を社労士法等の数少ない条項を手がかりに判断するという、まったく異質な問題です。私は、第2問の方が、解法のテクニックを見つけ易いし、マスターし易くて、得点源にできるのではないかと考えています(問題文も短いですし。)。でも、つかみどころがなくて、どうして良いか分らず、苦しんでいる受験生がかなりの数いるのも事実です。

 いきなり最近の複雑化した過去問から始めると説明がややこしくなるので、私の古い友人のベテラン特定社労士が冗談で、「第1回は名前を書いたら誰でも受かった!」と言っていた(第1回を受験して合格された方で、同様に言われる方は何名かおられますが、あくまで大阪人特有の自虐的ギャグにしておられるのだと思います。)第1回(平成18年度)特定社労士試験の第2問(社労士連合会のWebsiteに載ってます。)を例にして、社労士法の条文を事実に当てはめながら、答えを導き出す説明をします。

 まず、社労士連合会が公表している第1回第2問の出題の趣旨は、次のとおりです(抜粋します。)。これを読んだだけで答えが書ける人はすごいなあと思いますが、大抵の人は無理でしょう(私も無理でした。)。

 小問(1)及び(2)

[出題の趣旨] 

 社会保険労務士法第22条は特定社会保険労務士が行いえない事件を定め   ているが、本問は、主に同条第2項の理解の程度を問う倫理の問題である。

 ここでは、同項が定められた理由、「協議を受けて賛助する」ことの意義、そして、同項については、受任している依頼者の同意があっても、代理業務ができないと定められていることなどについての正確な知識と理解が求められている。

 

 続いて、社会保険労務士法(以下「法」という。)第22条は次のとおりです(問題文には条文の引用はありません。)。同条のうち、本文でその適用のあり方を問われているのは、第2項第1~3号(太字の部分)です。さらに、「協議を受けて賛助する」ことの意義、について問われています。実は、法第22条の解釈については、能力担保研修の第16回(令和2年度)特別研修 グループ研修・ゼミナール研修教材のP116-118に=社会保険労務士法の解説(抜粋)=として書かれています(法全部はP83-115に記載)。この解釈を法第22条の下に掲げます。

 

(業務を行い得ない事件)

第22条 社会保険労務士は、国又は地方公共団体の公務員として職務上取り扱った事件及び仲裁手続により仲裁人として取り扱った事件については、その業務を行ってはならない。

2 特定社会保険労務士は、次に掲げる事件については、紛争解決手続代理業務を行ってはならない。ただし、第3号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。

1.     紛争解決手続代理業務に関するものとして、相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件

2.     紛争解決手続代理業務に関するものとして相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの

3.     紛争解決手続代理業務に関するものとして受任している事件の相手方からの依頼による他の事件

4.       開業社会保険労務士の使用人である社会保険労務士又は社会保険労務士法人の社員若しくは使用人である社会保険労務士としてその業務に従事していた期間内に、その開業社会保険労務士又は社会保険労務士法人が、紛争解決手続代理業務に関するものとして、相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件であって、自らこれに関与したもの

5.       開業社会保険労務士の使用人である社会保険労務士又は社会保険労務士法人の社員若しくは使用人である社会保険労務士としてその業務に従事していた期間内に、その開業社会保険労務士又は社会保険労務士法人が紛争解決代理業務に関するものとして相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるものであって、自らこれに関与したもの

(用語の解説)

  • 「相手方」―――――――外形的に紛争があるように見えても、当事者間に実質的な争いがない場合は、相手方にあたらない。
  • 「協議を受けて」とは、具体的事件の内容について、法律的な解釈や解決を求める相談を受けることをいう。したがって、単に話を聞いただけであるとか、立ち話や雑談の域を出ないものであって、法律的な解決にまでは踏み込まないものについては、ここでいう「協議を受けて」にはあたらない。
  • 「賛助」とは、協議を受けた具体的事件について、相談者が希望するような解決を図るために助言することをいう。内容としては、相談者に対して事件に関する見解を述べたり、とるべき法律的手段等を教えることである。したがって、相談者の希望しない反対の意見を述べた場合等には、ここにいう賛助にあたらない。

 小問(1)は、特定社労士甲は、過去にX市の無料相談会労働者Aから、勤務先のB社から労働条件の切り下げを受けたので、その件でB社を相手にあっせんを申請するためのあっせん申請書に記載すべき申請内容や手続について協議し、指導したのだけれど(労働者Aから代理行為の受任はしていない)、後日、当該紛争について、相手方のB社の代理人になることはできるか?を問うています。

 法第22条2項1号が適用になって紛争解決代理業務を行ってはならない事件に該当するか?が論点です。この場合、労働者Aは、一方的労働条件切り下げという紛争(事件)の相手方当事者であり、「相手方」に該当します。労働者Bの無料相談会での特定社労士甲への相談内容は、当該紛争解決のためのあっせん申請書の内容や手続について協議して、甲はBに指導した(甲は、申請に反対せずむしろ申請を手伝った。)のですから、甲はBから「協議を受けて」、「賛助した」と言えます。よって、本件B社からの依頼は、社労士法第22条第2項第1号に該当するので、受任できないとなります。

 私としては、この小問(1)の事例は、同法同条同項第2号にも該当する可能性があると思いますが、150字という字数制限の中で、そこまで議論すると字数オーバーになるかな?と思い悩むところです(2号適用の可能性について議論しなくても合格点は貰えると思います。)。

 小問(2)は、(1)と同様の状況で、特定社労士甲が、労働者Aの同意を得たら受任できるか?と、さらに問いかけています。同法同条同項第1号には、「相手方(ここではA)の同意があれば受任できる」とは定められていません。一方、「相手方の同意があっても受任できない」とも定められていません。相手方Aが、「気にせずB社の代理人になってください。」と言ったとして、やっぱり、目の前の依頼者(B社)の代理人になってはいけないのか?が論点です。そこで同条同項ただし書を見ます。「ただし、第3号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。」と書かれています。これは同条同項第3号の場合には、「利益相反のおそれのある当事者の同意があれば、受任しても構わない。」、と言ってくれています。裏を返すと、同法同条第1号と第2号の場合は、「利益相反のおそれのある当事者の同意があっても、受任してはならない。」と言っていると解釈することになります。したがって、本問では、「仮に労働者Aの同意を得たとしても、B社の代理人になることはできない」と法律の条文が明確に禁止しているので、受任できないと答えることになります。

 倫理事例の問題を解くにも、法律の条項の解釈が要り、その解釈した条項の意味に事実を(評価して)当てはめて、その効果を見るという作業があると言うことが、理解いただけたでしょうか。私は、「本人同意」はオールマイティに近くて、「本人同意を得て、しかも特定社労士が同意した者を害さずに仕事ができると考えるなら、どんな場合でも受任できる」と法の条文に定めておくべきだとは思いますが、現実は、そうなっていません。そこのところが、この倫理事例の解き方を難しくしているのではないか?と思う今日この頃です。

 で、ここまで読まれたら、第1回特定社労士試験の過去問を見て、実際に第2問の回答を紙にボールペンで手書きしてみてください(字数制限を守って。)。まず、何(キーワード等)をどの順番で、どのような接続詞を使って書けば、出題者の意図に沿った回答になるかです。そう簡単には書けないと思いますので、次回、答案の書き方を説明します(当時は、たった1条の解釈で解けたのか?羨ましいなあ、とは考えないでください。)。

 ところで、情報提供です。ご存じの方には、余計なお世話かもしれません。大阪府社会保険労務士会会誌ザ・えすあ~る2021年3月号のP73に「あっせん室バーチャル見学体験」という特定社労士特別部会の研修動画が配信されていますとの記事があります。特定社労士の仕事の一端が見られる貴重な機会なので、是非、観てください。同誌に案内が載っている厚生委員会主催の菊池幸夫弁護士によるオンライン講演会(動画)も、なかなか興味深い内容(刑事裁判がメイン)でした。大阪府の会員でない方は、お知り合いの大阪府の会員の方に見せてもらってください(一見の価値は、あると思います。)。