TokuteiJuku’s blog

特定社労士試験の勉強と受験

第6回第2問(倫理事例問題)の解説

 昨年(2021年)9月4日と9月8日の記事を一部修正して引用します。今回は追伸が長いです。

 

第6回第2問(倫理事例問題)の解き方(その1)***************

 まず、問題文は、次のとおりです。出題の趣旨は、最後に掲げておきますから、適宜参照してください。今後、一々丁寧に用語を書いて定義するのは面倒なので、特定社労士、一般社労士、特定社労士業務、一般社労士業務、お客様、依頼人などの用語は、これまでの定義のまま使いますので、悪しからずご了承ください。

<問題>***********************************

第2問 特定社会保険労務士甲は、従業員50名ほどのB株式会社に勤務していたAから、B株式会社を生産縮小に伴う配転拒否を理由に解雇されたので、復職を求めてAの代理人として都道府県労働局長に対するあっせん手続を申請して欲しいとの相談を受けた。

 以下の(1)及び(2)のそれぞれの場合について、その結論と理由を200字以内で記載しなさい。

小問(1) 甲の弟がB株式会社の常務取締役の地位に就いている場合、甲はAの依頼を受けることができますか。

小問(2) 甲はAから相談を受ける6ケ月程前に、商工会議所の無料相談会でB株式会社から就業規則の残業手当の計算方法の変更についての相談を受け、その場で指導したことがあった場合、甲はAの依頼を受けることができますか。

***************************************

 1か月も間が空くとお忘れかも知れませんが、倫理事例問題で最初にするのは、各「登場人物の立ち位置(機能)」と「登場人物同士の関係」を図に描いて、当該事例の全体像を把握することです。A、B社、甲、甲の弟(この人は直接関与していませんが)の4人の登場人物について整理すると次のとおりです(図はご自分で描いてください。)

A(配転拒否を理由にB社を解雇された。復職を求めてB社相手にあっせんを申請する。

甲にその代理人の依頼をしたい。)

B(Aを解雇した元雇用主。Aのあっせんの相手方となる。甲の弟が常務取締役である。)

(6か月前に商工会議所無料相談会で甲に自社の就業規則に関する相談に乗ってもらっ

た。)

(AからB社を相手方とするあっせんの代理人業務を依頼された。弟がB社の常務取締

役である)

(6か月前に商工会議所無料相談会でB社の就業規則に関する相談に乗った。)

甲の弟(Aが申請するあっせんの相手方B社の常務取締役である。Aからあっせんの代理

人の依頼を受けている特定社労士甲の弟)

 

 小問(1)では、甲は、自分の弟が常務取締役を務める社相手のあっせん手続きの代理人業務を受任できるか?が問われています(ここで小問(2)の条件を入れないのはもちろんです。)。

 まずは、弟のことを横において考えて見ます。B社は甲の過去の依頼人でもお客様でもありませんから、社労士法第22条2項に該当するような事実は甲とB社の間には(つまり利益相反関係も守秘義務も)一切無いことになります。とすれば、甲はAの代理人業務を受任しても構わないことになります。ここで問題は、甲の弟がB社の常務取締役の地位にあるということです。①Aと個人としての甲の弟の間に利益相反関係は存在するのか?と②その利益相反関係に甲が巻き込まれるのか(兄と弟は利害が共通するのか)という論点が考えられます。

 会社法の話から始めます。株式会社の取締役には、会社の代表権を持つ代表取締役(普通は「代表取締役社長」、「代表取締役会長」などです。)と持たない(平)取締役があり、その中間に「専務取締役」、「常務取締役」などの代表権を持つ場合と持たない場合(表見代表取締役)のある「役付取締役」があります。

(注)法律学小辞典5に「取締役」、「代表取締役」、「表見代表取締役」の用語は載っていますが、その他の用語は会社法の本を見ないと分らないですね。

 甲の弟が代表取締役・常務取締役であったなら、甲の弟はB社の代表権を持っているのでB社と利害が一致している(一体。代理人と本人の関係に類似)と考えられます。一方、甲の弟がただの常務取締役(表見代表取締役)だったら、実際に甲の弟がB社の取締役から与えられている権限(の範囲)が問題になります(例えば、人事・総務担当役員としてAの解雇を決済したとか、営業本部長でAの解雇とは無関係とか。)。会社法の問題を解いている訳ではないので分析はこのぐらいでやめておきますが、甲の弟とB社はほぼ一体(つまり、Aに敵対している、利益相反関係にある。)と考えて間違いないでしょう。

 次に、甲(兄)と弟は本事案の利害を共通にするのか?という問題です。法律的に言えば、甲とその弟は別人格であり、弟がB社の常務取締役であることは、甲によるAの代理人の受任とは無関係だと思います。よって、双方代理や社労士法第22条2項から判断すれば受任できるという結論になります。

 ここにおいて、思い出さなければならないのは、社会保険労務士の「誠実、公正、信用、品位など」の倫理に関する社労士法の条項です。甲と弟が滅茶苦茶仲の悪い兄弟で喧嘩ばかりしているなら格別(そのような関係であっても急に弟がわびを入れて、兄に助けを求めることはあり得ます。)、普通なら、弟がB社での立場に傷を付けられるかも知れない個別労働紛争申請人Aの代理人を甲が受任して、Aのために最善尽くすというのは、ちょっと考えられないと思います。仮に、甲自身はとても誠実な人で、そのような自信があったとしても、他人から見たら疑わしいですよね。とすれば、「誠実、公正、信用、品位などの点から考えて受任すべきではない」という回答になります。今まで、利益相反の回避ではなくマネージをすべきであると述べてきた私の立場からは、甲からAに事情を説明して、甲は弟がB社の常務取締役であっても、本件に関して弟と一切連絡を取らず、Aのために最善を尽くすことを約束し、Aがこれを納得のうえで、甲に代理人業務を依頼するのならば、受任しても構わないという付帯条件付きの受任をお薦めします。

 直接の設問とは違いますが、例えば、甲は弟とすごく仲が良くて、弟のB社での立場を忖度して、Aの依頼を断りたいと考えたときに、これを断って構わないのでしょうか?

 社労士法20条(依頼に応ずる義務)という条項があって、開業社労士は「正当な理由がある場合でなければ、依頼を拒んではならない。」と規定されています。とすると、「正当な理由」がないと断れないのか?「弟思いの兄だから」というのでは「正当な理由」にならないのだろうか?などと考え込んでしまいそうです。

 しかし、同条の「依頼」の後には、「(紛争解決手続代理業務を除く。)」との括弧書きが入っているので、Aからの特定社労士業務の依頼を断るのに「正当な理由」は要りません。単に、「Aが嫌いだから」とか「報酬が安い割に手間がかかりそうだ」とかいう理由でもOKということです。「社労士法20条で特定社労士業務に受任義務はない。」と覚えておいてください。逆に言うと、一般社労士業務を断るときに、この「正当な理由」がないと、社労士法20条違反になるということですから、これも覚えておいてください。

 これは老婆心ながら。Aからあっせんの代理人業務の依頼(相談)を受けた甲は、もし、(その相談の過程で)弟との関係でB社相手のあっせん申請代理人業務を断るべきと判断したら、直ぐにAに対して「自分は受任しないから、これ以上の相談には乗れない。」と言うべきです。Aから色々と秘密情報を聞き出した挙げ句に、「やっぱり受任をお断りします。」と言ったり、その後、Aから聞き出した情報を弟やB社に提供したら(B社の代理人になっていなくても)、「誠実、公正、信用、品位など」から考えて、社会保険労務士にあるまじき行為と言うことになって、社労士会から懲戒処分を受ける可能性がありますから、気を付けてください。紛争解決手続代理業務の依頼人候補者が相談にやってきたら、ます「相手方は誰か?」を聞いて、利益相反関係が生じそうだったら、その時点で断る(そのとき、断る理由をどこまで告げるかは悩ましい。)のが賢明な特定社労士の態度だと思う、今日、この頃です。過去問を検討する際には、違う角度からの質問も考えるようにしてください。そうすれば、理解が深まりますし、本番で、想定外の新問に出会っても、慌てずに対処できる自力がつくと思いますから。

 閑話休題。回答例を次に書いておきます。小問(2)は次回検討します。

 

<小問(1)回答例>

特定社労士甲は、Aの相手方となるB社との間に直接の利害関係はなく、社労士法22条

2項(業務を行い得ない事件)に該当することも民法の双方代理に該当することもない。し

かし、甲の弟のB社内での地位から考えてB社と間接的な関係がないとは言えないので、

甲がAの代理業務を公正・誠実に行えるかどうかに疑念が生じ、社労士の信用や品位を害

するおそれがあるので、甲のAに対する真摯な説明と同意がない限り、受任すべきで

はない。

 

<出題の趣旨>********************************

1)小問(1)

〔出題の趣旨〕 特定社会保険労務士甲として、従業員50人ほどのB株式会社に

      勤務していたAから、B社を生産縮小に伴う配転拒否を理由に解雇

      されたことにつき、B社に対し復職を求めAの代理人として都道

      県労働局長へのあっせん手続の申請を依頼された場合に、甲の弟が

      B社の常務取締役の地位に就いているとき、甲はAの依頼を受ける

      ことができるかという、申請の相手方となる会社に甲の兄弟がいる

      という場合の依頼者の利益を害するおそれ、職務の公正、社会保険

      労務士の品位と信用といった倫理を問うもの。

      〔配点〕15点

(2)小問(2)

〔出題の趣旨〕 特定社会保険労務士甲として、前記の事例を前提に、Aから相談

      を受ける6か月程前に、無料相談会でB社から就業規則の残業手当

      の計算方法の変更について相談を受け、指導したことがあった場合、

      甲はAの依頼を受けることができるか否かについて、6か月前に終

      了している社会保険労士法第2条1項第3号の業務を行ったことが、

      B社を申請の相手方とするAの依頼を受ける場合に、A及びB社そ

      れぞれに対する信頼関係上どう考えるべきかといった倫理を問うも

      の

     (注)下線は私が引きました。

 

第6回第2問(倫理事例問題)の解き方(その2)***************

 

 前回の続きの小問(2)を検討します。まずは、問題文です。

<問題>***********************************

第2問 特定社会保険労務士甲は、従業員50名ほどのB株式会社に勤務していたAから、B株式会社を生産縮小に伴う配転拒否を理由に解雇されたので、復職を求めてAの代理人として都道府県労働局長に対するあっせん手続を申請して欲しいとの相談を受けた。

 以下の(1)及び(2)のそれぞれの場合について、その結論と理由を200字以内で記載しなさい。

小問(1) 甲の弟がB株式会社の常務取締役の地位に就いている場合、甲はAの依頼を受けることができますか。

小問(2) 甲はAから相談を受ける6ケ月程前に、商工会議所の無料相談会でB株式会社から就業規則の残業手当の計算方法の変更についての相談を受け、その場で指導したことがあった場合、甲はAの依頼を受けることができますか。

***************************************

 前回整理した、各当事者の説明は次のとおりです。小問(2)では甲の弟の話は関係ないので省きます。

 

A(配転拒否を理由にB社を解雇された。復職を求めてB社相手にあっせんを申請する。

甲にその代理人の依頼をしたい。)

B(Aを解雇した元雇用主。Aのあっせんの相手方となる。6か月前に商工会議所無料相談会で甲に自社の就業規則に関する相談に乗ってもらった。)

(AからB社を相手方とするあっせんの代理人業務を依頼された。6か月前に商工会議所無料相談会でB社の就業規則に関する相談に乗った。)

 

 まず、甲から見てB社は何に該当するかです。「6か月程前に就業規則の残業手当の計算方法の変更についての相談を受けて指導した」というのは、過去に一般社労士業務を受任したことのある「過去のお客様」です。「過去の依頼人」ではありません。よって、社労士法第22条2項(業務を行い得ない事件)に抵触して受任できないということも、民法108条(双方代理)に該当して受任できない(正確には無権代理で効果が本人に帰属しない)ということもありません。

 先に、過去の仕事の内容からの評価(判断)をしました。次のステップですが、過去のお客様との「時間的近接性」と「報酬の有無という近接性」を考えます。

(過去問でこのようなキワドイ設例はないのですが)例えば、先週、甲は知人の紹介でB社の人事部長から就業規則に関する相談を有料で受けて報酬が来月支払われる約束になっているなどという、一般社労士業務とは言え、甲とB社との関係がかなり(時間的・金銭的に)近い場合には、現在の依頼人候補者Aから見て(客観的に見ても)、特定社労士甲の公正、誠実、信用、品位などに疑念が生じ得ます。また、B社からしても、「このように親しく?相談に乗っていただいている社会保険労務士の先生が、まさか翌週、自社を相手にあっせん申請の代理人になって現れるとは・・・」と受け止めて、裏切られたと考えるのでしょう。よって、これらの観点から、甲はAの依頼を断るべきという結論になります。

 しかし、本問では、甲とB社の間の関係は、①過去の(一般社労士業務の)お客様に過ぎない、②6か月が経過している、③(商工会議所主催の無料相談会なので)B社から甲に報酬が支払われていないという3点が挙げられているので、受任しても、Aも甲に疑いを抱かないし、B社も甲に裏切られたとは思わないだろうから、「社会保険労務士の誠実、公正、信用、品位などを害するおそれはない」ので、受任できるということになります。

 出題の趣旨に書かれているとおり、AとB社の両方が甲の態度をどう見ているか?という記載ができたかどうかが高得点のポイントだと思います。AかB社いずれかの立場から書いていても一応合格点はもらえると思うのですが、誰の立場から見ているのかよく分らない(AとB社を混同して書いてある)とかなりの減点になると思います。本問の場合、小問(1)の続きからAの視点は気付き易いのですが、B社の「裏切られた!」という感情面に気付くかというのが、勝敗の分かれ目かな?と思う、今日、この頃です。

 

<小問(2)回答例>

特定社労士甲は、Aからの代理人業務の依頼を受けることができる。なぜなら、甲がB社から相談を受けて指導した案件は、6か月前の商工会議所主催の無料相談会における、就業規則の残業手相手の計算方法の変更に関してであり、社労士法22条2項に定められた「業務を行い得ない事件」に抵触することはなく、Aから見てもB社から見ても、甲の公正さ、誠実さを疑わせることはなく、したがって、社労士の信用や品位を害するおそれもないからである。

 

(注)回答で、あえて、「双方代理」に付いて書くのは、「双方代理になるので受任すべきでない場合」だけであり、(社労士法第22条2項と違い)「双方代理にはならないから受任できる」と書く必要はないと思います。字数制限が厳しいので、書けないというのが実態でしょう。もし、空白だらけで困ったら、書くという手はありますが。

 

<出題の趣旨>********************************

(2)小問(2)

〔出題の趣旨〕 特定社会保険労務士甲として、前記の事例を前提に、Aから相談

を受ける6か月程前に、無料相談会でB社から就業規則の残業手当

の計算方法の変更について相談を受け、指導したことがあった場合、

甲はAの依頼を受けることができるか否かについて、6か月前に終

了している社会保険労士法第2条1項第3号の業務を行ったことが、

B社を申請の相手方とするAの依頼を受ける場合に、A及びB社そ

れぞれに対する信頼関係上どう考えるべきかといった倫理を問うも

(注)下線は私が引きました。

 

追伸 (集合研修を控えて)

 

 能力担保研修の集合研修を受ける人のために、その準備のやり方について書きます。使われる教材は、「特別研修 グループ研修・ゼミナール研修」(以下「本教材」という。)です。

 簡単に言ってしまえば、計3日の集合研修では、約10名のグループごとに分かれて、本教材に掲載された設例1(申請書作成)と設例2(答弁書作成)について、メンバーで協力して申請書と答弁書の答案2つを作成し、印刷物に皆でサインして、チューターの特定社労士の先生のサインもいただいて、期日までに社労士会に提出することをやります。提出期限は集合研修最終日より後に設けられていますが、全員が集まってサインをできる(特にチューター)のは、実際には集合研修最終日になりますから、実際には、集合研修最終日の夕方までに完成させると言うことになります。

 ちなみに、大阪の集合研修は、10月15日(土)、29日(土)、30日(日)となっているので、初日の10月15日の朝に、誰が答案の原稿(たたき台)を書いて(何人もで書いてきたもの摺り合わせるのは時間の無駄)、どのような手段(例、Zoom、LINE、電子メールなど)で加筆修正しながら29日(土)の朝に最終の原稿を持ち寄って、1日掛けて議論して完成させて、提出する責任者が翌(30日)朝には紙に印刷したものを複数持参して、皆のサインをもらって必要部数をコピーして、事務局に提出すると言うことになります(理想は・・・)。このとき提出した答案は、後日のゼミナール研修の際、いくつかのグループの答案と並べてコピーが配布され、同じ教室に集められた他のグループの目に触れることになりますし、弁護士講師から講評(批判や意地悪な質問)を受けることになりますので、出来が悪いと(あるいは何故こう書いたかの説明ができないと)、50-60名の受験生の前で恥をかくことになります(実際は、完璧な答案などないので、全員が恥をかくので気にする必要はないのですが。)。

 問題は、本教材を読んだだけで、誰でもがスラスラと答案を書けるほど、この研修は甘くないということです。しかし、これを乗り切らない(申請書と答弁書の書き方を知らないと)と、そもそも個別労働紛争解決代理業務の受任などできないですし、特定社労士試験の受験資格が得られないので、一所懸命取り組みましょう。

 とは言え、約10名が全員当事者意識を持って答案作成にかかわれるかというと、受験生のレベルに差があるので、やはり2-3名が中心になって、たたき台を作ったり、オンライン会議を招集したり、ワープロの修正作業をすることになります(つまり、多数は傍観者)。ここに参加しておかないと、後日のゼミナール研修で弁護士講師から質問を受けたときに答えられないし、折角の勉強の機会を失って、受験勉強や合格後の実務にも支障が生じますから、このブログの読者の方は、是非、準備を万端にして、積極的に答案作成の中心メンバーとなって、最大の成果をあげてください。塾生には、各自で答案のたたき台をワープロで作成して、研修当日はPCか印刷した原稿を持参するように指導しています。

 集合研修の際、己をむなしくして、黙って、他人の話を聞いて他人が作成した答案にサインするだけで切り抜けようなどという不届きな考えは、持たないことです。老婆心ながら。

 以下、参考までに昨年のブログの記事2つを、一部修正して引用します。

***************************************

このブログで取り扱ってきた労働紛争事例問題の過去問は、第1回、第2回、第3回、第11回でした。

 第1回は、整理解雇、勤務地限定特約、通勤手当の不正受給でした。第2回は、普通解雇(勤務態度不良・職務能力不足等)、でした。第3回は、解雇権濫用法理、職種限定の労働契約、配転命令権行使の違法性でした。

 河野過去問集に各回の論点のマトリックスが載っていますが、昨年度、私は、過去問を全部解きながら、これを論点別に整理し直してみました。するといくつかの発見がありました。

 まず、とにかく「解雇」が一番大きな論点で、その中には、「普通解雇」、「懲戒解雇」、「整理解雇」、「諭旨解雇」、「試用期間満了に伴う解雇」、「有期雇用契約の雇止め」、「有期雇用契約期間中の解雇」、「希望退職(肩たたき)」などが含まれています。現実の問題として、在職中に会社(雇用主)を相手に調停やあっせんを起こすのは難しいでしょうから、解雇(会社を辞めた)後に申立てるという事例が多くなるのは頷けます。

 頻度と重要度を考慮して論点を順番に並べると、次のようになります(あくまで私見)。

(1)    普通解雇:第2回、第3回、第9回

(2)    懲戒解雇:第7回(経歴詐称を根拠事由とする場合は、普通解雇でもありえます。)

(3)    整理解雇:第1回、第10回

(4)    諭旨解雇:第8回

(5)    試用期間満了と解雇:第6回、第16回

(6)    雇止め:第4回、第5回、第13回(この回は有期雇用契約期間中の解雇)

(7)    退職の意思表示の撤回:第14回

(8)    セクハラ・パワハラ不法行為):第11回

(9)    労働条件の不利益変更:第4回

(10)              出向・転籍・配転:第3回

(11)              希望退職(肩たたき)

(12)              時間外手当(サービス残業、固定残業代、名ばかり管理職

(13)              内定取消

 以上の中で該当回を書いていない(10)~(12)はどこかの回で付随論点として出題されていますが、(13)内定取消だけは出題されていません。

 ところで、私がこのような論点整理を行った理由は、今後出題されるであろう労働紛争事例問題の各論点について、その要件を先に整理して覚えてしまおうと考えたからです。

 例えば、第1回で問われた整理解雇の4要件(要素)は、①人員整理の必要性、②解雇回避の努力、③整理解雇対象者の選定の合理性、④整理解雇手続の妥当性でした。もちろんこれらを覚えただけでなく、これらを設例に当てはめて、これらの要素に適合する事実を拾い上げる訓練(練習)が要るのは当然ですが、(過去の経験から)まずは、各論点の要件(要素)を覚えなければ話にならないからです。

 受験生の皆さんは、菅野本か安西本か中央発信教材を使って、これらの論点の要件(要素)を調べて書き留めて、暗記できるようにカードにしたり、壁に貼ったりして覚えるようにしてください。この作業は、特定社会保険労務士試験の受験対策と同時に、集合研修の課題の回答を準備する際にも役立ちます。

 例えば、議論をする際に、「整理解雇の4要素は、☓☓と○○と▲▲と**だから、Aという事実は☓☓に当てはまるが、Bという事実は、どれにも当てはまらない。▲▲という事実に当てはまる事実はない。よって、整理解雇は成立しない。」とか発言すると、「おぬし、できるな!」とメンバーに思われて、ちょっと優越感に浸れるかもしれません。逆に、皆がこんな話し方をしていて、自分だけついていけないとショックを受けるかもしれません。いずれにしても、この記事を読んだ人は、しっかり論点の要件整理の勉強(準備)をしてください。   

 過去にも似たような話を書いたような気がしますが、まあ、いいか。今回の記事は短いですが、皆さんへの宿題としては大きかったですね。

 ところで、単に論点の要件(要素)を調べて書き出すと言っても、そう簡単ではないというお話もしておきます。

 例えば、まだ出題されたことのない「採用内定の取消し」の論点を検討する際には、まず、「採用内定」の法的な意味(雇用契約の締結か、その予約契約の締結か等)を確定しなければなりません。ここで問題になるのは、「採用内定」と一言で表現されていても、採用担当者の口約束なのか、人事部長の口約束なのか、他の内定先を辞退するよう告げられたのか、卒業後は入社しますとの誓約書の提出をしたのかなど、その態様は様々で、一概に法的な意味を確定できないことです。

 次に、採用内定の態様に応じた法的意味が確定したら、それを取り消したらどのような効果(雇用契約違反、予約契約違反、不法行為など)が発生するのかについて確定する必要が生じます。

 以上を全部整理して、それぞれの要件を書き出してこそ、はじめて試験対策等で使える情報源になることはお分かりのことと思います。これらを全部実行して、書き記して、ご自身のサブノートを作っていくという作業が、これから10月下旬の集合研修までの労働紛争事例問題の答案練習と並ぶ大きな準備と言うことになると思います。

ちなみに、安西本(P9-12)に採用内定の取消しについて書かれています。そこでは、実務家らしく、採用内定者を、「採用予定者」と「採用決定者」の2つのタイプに大きく分けて、その法的保護の程度の違いを述べています。一方、菅野本(P230-236)では、法律学者らしく、採用内定過程の法的意義について、より細かく分析して検討しています。理解し易さと使い易さから言うと、安西本に軍配があがると思います(菅野本の方が法律の勉強にはなります。)。安西本をお持ちでない方のために、該当箇所(P10)を引用しておきますが、実際に安西本を読まないと、どのような態様がどちらに当てはまるかまでは、分らないと推測します。ただ、「解雇」扱いになるか、ならないかの線引きがあるという所までは理解いただけるものと思います。いずれにしても、よく基本書を読んで勉強して置いてください。本年度、出題されてもおかしくない論点だと思われますから。

『採用予定者・・・まだ労働契約が成立しておらず、その従業員としての地位を取得していない者。いわゆる労働契約締結の「予約者」とか「採用内定契約」という特別の契約者といわれている。[その取消は解雇にならない。 ]

  採用決定者・・・労働契約が成立し、その会社の従業員としての地位を取得した者。ただし、卒業という条件や入社日の到来という始期がついていれば効力の発生はそれらの成就した時からとなる。[その取消は民法上の解雇になる。] 』

(注)文中の安西本に関して、先日、弁護士安西愈著「管理監督者のための採用から退職までの法律実務[改訂第17版]」一般社団法人埼玉県経営者協会本体1,800円が発行されたので、早速購入しました。文中の安西本の内容が若干古かったのですが、最新になっているので、今から購入するならこちらをお薦めします。

***************************************

 まず、特定社会保険労務士 前田欣也著「個別労働紛争 あっせん代理 実務マニュアル 3訂版」日本法令を推薦します。

 本年度の能力担保研修を受ける受験生には、集合研修で作成する申請書と答弁書の書き方の参考となります。中央発信教材に載っている情報だけでは、(普通の受験生なら)まともな申請書と答弁書は書けないと考えています。元々特定社会保険労務士の実務用に書かれたこの本では、訴訟物(論点)のタイプ別に申請書の書き方が整理されているので、集合研修の準備と合格後の実務に役立つと思われるので、是非、読んでみてください。

 一方、再受験の方にとっては、本年度は能力担保研修がないので、ある意味、今頃は何を勉強したらよいのか迷っているのではないかと思われます。特定社会保険労務士試験と実務の両方の全体像を捉え直すという意味(そうか、このためにこういう出題がなされるのかとかの発見)で、やはり、この本を読まれることをお薦めします。

 実のところ、申請書と答弁書の書き方を、私が自分で書こうと考えていました。しかし、この頃、仕事が忙しくて、書く時間がなかなか取れないのと、この本の方が、私がイメージしていたもの(単なる研修と試験対策)よりずっと深く論点を掘り下げているので、勉強になると判断したからです。

(注)塾生には、まず自分で答案の原稿を書いてきたらアドバイスをするという方針で臨んでいますが、法律の勉強をしたことのない人にとっては、結構辛い修行ですね。

***************************************