TokuteiJuku’s blog

特定社労士試験の勉強と受験

第17回試験問題の解説

 各小問の解答例を書いた上で、その解説をしていきます。

第1問

小問(1)

(解答例)

  • Xは、Y法人に対し雇用(労働)契約上の権利を有する地位にあることを確認することを求める。
  • Y法人は、Xに対し、令和3年10月20日限り金188,000円および令和3年11月から毎月20日限り金188,000円を支払うこと。

(解説)

 次の出題の趣旨中の私が下線を引いた箇所が、解答の2項目を語っています。①については、6月4日の記事「最近の試験問題の構造の分析とその解き方(その1)」に書いた「地位確認訴訟」なので「更新拒絶が無効であることを確認する」ことを求めるのではなく、当然のごとく更新されて今も雇用されている(労働されているとは言えないのですよね)という状態を確認すること(地位確認訴訟)になります。②については、(これも過去の記事に書いた)危険負担の債権者主義が適用されて、使用者側に帰責事由(不当な更新拒絶)があって、労働者側が労働したくても出来ないのだから、使用者側に賃金支払義務は残っているという考え方に基づいて、「ノー・ワーク・ノー・ペイの原則」の例外的に未払賃金を請求することが出来るという理論を根拠に請求しています。ここで注意すべきは、9月末日で雇止めになっていて、9月分の賃金が(翌月)10月20日払いになっているのですが、これが既に支払われたかどうかは、XとYの言い分からは不明です。安全策としては、この既発生分の9月分金188,000円も請求しておいた方がベターだと思います。もちろん、事実を調査・確認してムダのない請求をすべきなのですが、請求せずに申請書を提出して後出しジャンケンみたいに請求を追加して、原則1日の調停やあっせんで認めてもらえなくて困るより、漏れなく請求して、もし支払済みだったら請求を取り下げたら良いだけだから、書いておくにこしたことはないと考えるからです。

 

〔出題の趣旨〕   Xの立場に立って、特定社会保険労務士としてXを代理し、雇用期

  間の終了による雇止めの無効を主張し、Xを申請人、Y法人を被申請人として「個

  別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」に基づき都道府県労働局長にあっせ

  ん申請(以下「本件手続」という。)をするとして、当事者間の権利関係を踏まえ

  て記載するとした場合の「求めるあっせんの内容」の記載を問う出題である。

  解答にあたっては、本問が雇止め無効を理由とする「労働契約上の地位」の確

  認という法的構成による請求を求めているので、「求めるあっせんの内容」は、訴

  状の「請求の趣旨」のように、地位確認請求の記載と、それに基づく賃金請求の

  記載を求めるものである。

 

小問(2)

(解答例)

① Y法人の採用選考の面接の結果採用通知を受けて総務課長と面談した際に、労働条件通知書に記載された「更新4回をもって雇用は終了し、以降の雇用更新はしない」の意味について質問したら、総務課長が「Xさんの場合もたぶん(市からの)業務の受託が継続される限りは、仕事をお願いするのではないか」との解答があり、更新4回で雇用終了は形式的なもので、業務が継続する限り雇用が契約されるとXは理解したこと。

② 平成29(2017)年、1回目の更新の際、総務課長に更新回数の上限について再度質問したところ、「1年契約の委託業務であるが以前からY法人が継続して受託しており、現在ではY法人の一部署のようになっていること、市の委託契約が続く限り仕事を続けてもらってもよいと思う」、加えて、「市役所の方から受付案内が親切で評判がよい」と言われて、契約更新は4回までというのは自分に関しては形式的なもので当てはまらないとXは受け止めたこと。

③ 令和元(2019)年の3回目の更新の際は総務課長との面談であったが、更新4回で契約終了という話はなく、令和2(2020)年10月1日付けの4回目の更新の際は総務部長との面談であったが、やはり今回の更新で雇用期間が終了し雇止めとなるといった確定的なことは何も言われず、過去同様4回目も更新時に日給が200円アップしていたことも相俟って、Y法人はXの働きぶりに満足しており、契約は継続されるものとXは受け止めたこと。

④ Y法人の主要業務である指定管理者業務の職員の有期労働契約の雇用期間が5年の上限だから、市役所の受付業務の雇用期間の上限も5年に揃えるという論理には合理性がなく、雇用契約期間が5年を超えると無期転換権が生じることを避けるための屁理屈に過ぎない脱法行為で有り、これを実行するために労働契約書兼雇用契約書に「更新4回をもって雇用終了」と形式的に記載していること。

⑤ 本年7月の面談の際、総務部長から「現状では1名で十分受付案内業務はできるので、1名は余剰となる。受付業務は余剰人員になっているのだから、継続更新の必要性は認められないので、雇用契約条の更新基準にある業務の有無、業務の見通しから見ても更新基準には該当しない。」と言われたが、最近は市役所への来庁者も増え、市役所も通常の9時始業となるなど2名体制の維持は必要であり、これもXが無期転換権を取得することを回避するための屁理屈を並べた脱法行為であること。

(解説)

 どのような事実を拾い上げて要件事実とするかという問題ですが、〔出題の趣旨〕から逆算すると上の5項目ではないかと考えています。申請書なら、「職場復帰と未払賃金を請求するならば、「⑥ Xは、Y法人と、平成28(2016)年10月1日から契約期間1年の日給制の職員としての有期雇用(労働)契約を締結し、同様の契約を4回更新し5年間勤務した令和3(2021)年9月30日で雇止めになったこと。」を書いておかないと話にならないのですが、設問が「雇止めが無効であると主張する場合、それを根拠づける主張事実の項目」と限定してあるので、この⑥は今回は不要です。

 一番悩んだのは、「無期転換権の発生を回避するために雇止めをした」というY法人の隠れた意図をどのような「事実」によって表現するかでした。「Xが憶測でそう考えている」と書けば事実でしょうが、「Y法人の意図がそうだった」とか「本件雇止めは脱法行為である」というのは事実なのか?と悩んで、色々検討してこの結論に至りました。

 まあ、他にも書き方はあると思いますので、これらが絶対とは受け取らないでください。

① 採用決定後の面談で、総務課長が契約更新の期待をさせた事実を書きました。

② 1回目の更新の面談の際、総務課長がXに更新への期待を抱かせる言動をした事実を書きました。

③ 3回目と4回目の更新の際には更新拒絶の予告はなく、それまで同様日給が200円アップして、更新への期待を招いた事実を書きました。以上の3点の手落ちで、当初見込んだ無期転換権の発生を回避するために更新4回で雇止めにするというY法人の意図は実現し辛くなっています。

④ 雇用期間が5年となって無期転換権が発生することを避けるために、周到に準備して「更新4回まで」と労働契約書に書いてあることを書きました。ただし、だからと言って(その隠れた意図によって)、「更新4回まで」と書いてあることが無効になるかというとそうではないから、話がややこしくなります。「更新4回までと書いてある」は、Y社からの反論材料になります。

⑤ 仕事が減って1名で十分こなせるというのも、雇止めにして無期転換権を発生させないための屁理屈だろうということにしました。

 実は、下の小問(4)の[出題の趣旨]に「①本件が更新限度期間付の労働契約であること、その理由として②業務受託と指定管理者制度によるものであるとのY法人の主張の成否、②Xとして契約の更新継続を期待させるY法人の言動等の成否、③コロナウイルス感染症のまん延に伴う業務の縮小と整理解雇といった主張の成否に関し」と書かれているので、これらの項目に当てはまる事実を列挙しなさいという質問だと思います。

〔出題の趣旨〕   特定社会保険労務士として、Xを代理して、Xの立場に立って、本

   件手続を申請し、Y法人のXに対する雇用期間満了による雇止めが無効であると

  主張する場合、それを根拠づける主張事実の項目を簡潔に5項目以内にまとめて、

  箇条書きで記載することを求める出題である。

   解答にあたっては、本問は更新限度期間を定めた労働契約の問題であるから、

  Xの代理人としては当該契約の不成立雇用契約期間の継続更新の期待のあるこ

  と、本件更新限度契約は無期転換の阻止目的の脱法的なものであること等雇止め

  が客観的合理性と社会通念上の相当性に欠けることになるとの事実の簡潔な摘示

  による主張の記載を求めるものである。

 

小問(3)

① 労働条件通知書兼嘱託職員雇用契約書には、「更新4回をもって雇用終了」、「更新4回をもって雇用は終了し、以降の更新はしない」と記載してあり、最初の契約締結時から4回目の更新時まで、毎回同じ記載のある契約書を締結し直してきたのであり、Xはこれらの記載を認識したうえで、最初の契約を締結し、更新手続を重ねてきたはずであること。

② 毎年10月1日付けの契約更新時には、その前に総務部長か総務課長が本人と面談し、更新労働条件の説明や当人の希望のほか、仕事の状況、健康状態等を聞き、本人の仕事ぶりについて評価して、誉めたり励ましたりしてコミュニケーションをとったうえで、「更新4回まで」の記載のある契約書を締結し直して来たのであり、Xに更新継続を期待させるような形骸化した手続を取ってきたのではないこと。

③ Xは、1回目の更新の際に、総務課長が「市の委託契約が続く限り仕事を続けてもらってもよいと思うと言った。」と言っているが、総務課長が、上限期間を5年とするY法人の嘱託業務社員の雇用契約制度に反するようなことを言うはずがないうえに、3回目4回目の総務部長との更新面談の際には、Xから総務部長に対しては一切「更新4回まで」の話はなされておらず、Xの言い分は、後付けの理由であること。

④ Y法人の中核的業務は最長5年の指定管理者業務であり職員の雇用は5年までしか保障がなく、Xの担当した市との単年度契約になっている受付業務嘱託業務社員も長期雇用の保障がないことは同じなので、嘱託職員就業規則第21条で両者ともに最長5年間の雇用期間と規定しているのであり、嘱託社員の無期雇用への転換権の発生を回避することを意図した脱法的なものではないこと。

⑤ 受付案内業務は2名でも閑散としているので、Xは余剰人員となっており、正職員1名の体制で十分まかなえるので、労働条件通知書兼嘱託職員雇用契約書の記載に基づいてY法人が業務の見通し、勤務状況、勤務態度その他を勘案して判断した適法・適正な権利行使であり、Xに無期転換権が発生することを回避するために雇止めにしたのではないこと。

(解説)

 小問(2)と同じ考え方です。裁判例であげられた「雇止めの判断要素」を次に書いておきます。①業務の客観的内容と②契約上の地位の性格の分析・検討の結果をほとんど答案に書けていないのですが、5項目という縛りと解答欄のスペースから考えると、これらを詳しく書くことは難しいですね。

  • 業務の客観的内容―――――従事する仕事の種類・内容・勤務の形態(業務内容の恒常性、業務内容についての正社員との同一性の有無等)
  • 契約上の地位の性格――――地位の基幹性・臨時性(嘱託・非常勤講師等)、労働条件についての正社員との同一性の有無
  • 当事者の主観的態様――――継続雇用を期待させる当事者の言動・認識の有無・程度等(採用に際しての雇用契約の期間や、更新または継続雇用の見込み等についての雇用主側からの説明等)
  • 更新の手続・実態―――――契約更新の状況(反復更新の有無・回数、勤続年数等)、契約更新時における手続の厳格性の程度(更新手続の有無・時期・方法、更新の可否の判断方法等)
  • 他の労働者の更新状況―――同様の地位にある他の労働者の雇止めの有無等
  • その他―――有期労働契約を締結した経緯、勤続年数・年齢等の上限の設定等

〔出題の趣旨〕  特定社会保険労務士として、Y法人を代理して、Y法人の立場に立

   って、本件手続においてXに対する雇用期間満了に伴う雇止めが有効であると主   

   張する場合、それを根拠づける主張事実の項目(Xの主張に対する反論も含

   む。)を簡潔に5項目以内にまとめて記載することを求める出題である。

    解答にあたっては、Y法人の主張としては、本件更新限度期間を定めた期間雇

   用契約の有効性Xに契約の更新継続の期待のないこと期間満了雇止めの正当

   性本契約が無期転換阻止目的の脱法的なものではないこと等を箇潔に事実を摘

   示して記載を求めるものである。

 

小問(4)

<Xが有利な場合>

労働条件通知書兼労働契約書および嘱託職員就業規則に「更新4回まで」と明示したうえで、更新継続への期待を醸成させないよう厳格な更新手続を重ねるというY法人の対応は、無期転換権の発生を回避することを目的とする脱法的な手法である。加えて、面談者が、長期雇用を期待させるような言動をしたり、「更新4回まで」を明確に言い聞かせなかったり、市役所の案内業務の人員が余剰ではないのに余剰と言って雇止めを実行したこともあり、本件雇止めは客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められず無効とされる可能性が高い。

<Y法人が有利な場合>

労働条件通知書兼労働契約書および嘱託職員就業規則の「更新4回まで」の記載は、5年契約の指定管理者制度と1年単位の業務受託で嘱託職員の雇用期間を揃えるのが目的であり、無期転換権の発生を回避するための制度を用意したのではない。また、現状、案内業務は2名では余剰であり、毎更新時には厳格な手続を重ねて来たうえでXの雇止めをすることは、労働契約書に基づく適正な権利行使であるので、本件雇止めは客観的に合理的な理由があり社会通念上相当と認められ、有効とされる可能性が高い。

(解説)

 論点としては、①無期転換権発生回避のための脱法的仕組みを作って実行してきたことの善し悪し、②Xに更新継続による長期雇用への期待を抱かせないための手続にほころびが出て期待を抱かせてしまったか否かの2点が考えられます。Xの立場なら、①は悪いし②は期待を抱かせてしまったので、両方でXの勝ちとなるのでしょう。Y法人の立場なら、①は脱法目的は存在しないし②は期待を抱かせるほどの手続上の手落ちはなかったのでY法人の勝ちとなるのでしょう。いずれにしても、両当事者ともに強みと弱みを抱えていて、決定的にどちらかが有利という証拠(例えば、書証や第三者の証言)が見つからないので、どちらを勝たせるかは、どの要素や事実を重く見るかという受験生の主観にならざるを得ないとは思います。過去から、こういうスタイルの設例(XとYの言い分の書き方)になっていますが、本年度の第18回でガラッと変わるかも知れませんので、本番では、設例の文章を細かく読み込むことを忘れないでください。

〔出題の趣旨〕   本件事案について、双方の主張事実や本件事案の内容等を踏まえて

   本件雇用期間満了による雇止めの効力について考察し、その法的判断の見通し・

   内容について250字以内での記載を求める出題である。

    解答にあたっては、一方の主張だけでなくXの主張、Y法人の主張についてそ

   れぞれについて検討し、本件が更新限度期間付の労働契約であること、その理由

   として業務受託と指定管理者制度によるものであるとのY法人の主張の成否、X

   として契約の更新継続を期待させるY法人の言動等の成否、コロナウイルス感染

   症のまん延に伴う業務の縮小と整理解雇といった主張の成否に関し、客観的合理

   性と社会通念上の相当性の判断を問うものである。

 

小問(5)

<Xが有利な場合>

Xの代理人として、第1に、Y法人が、Xとの有期労働契約を令和3年10月1日から更に1年間更新したうえで、Xが勤務できなかった期間の賃金を支払うという和解案を提示します。もし、Y法人が、無期転換権の発生を嫌がるなどの事情から更新をどうしても拒絶したいなら、第2として、Y法人はXに対し、1年分の賃金相当の金2,256,000円(188,000円×12か月)を雇止手当として支払うという和解案を提示します。

 

<Y法人が有利な場合>

Xの代理人として、Xが本件有期労働契約の雇止めを受け入れることを条件にY法人が1か月分の賃金相当の金188,000円を雇止手当として支払うという和解案を提示します。もし、XがY法人への将来の就職を希望するのであれば、今後3年以内にY法人が嘱託職員を募集する際には、Xに対して迅速に当該情報を提供し採否を検討するという条件を和解案に加えることも求めます。

(解説)

 Xが勝つ可能性が高いなら、Xの代理人としては目一杯請求する訳ですが、5回目の更新をしたうえで無期転換の請求までしてしまうと、あっせんの目的を超えてしまうので、やり過ぎ感があります。また、Y法人としては、無期転換の前例を作ると他の嘱託職員に示しがつかなくなるので、Xに復職して欲しくないでしょうから、Y法人の顔を立たうえで、実際は働かないのに1年分の賃金を得るという実利優先という考え方も、十分に合理的な判断だと思います。

 Y法人が勝つ可能性が高いなら、Xとしてはわずかな金銭賠償と嘱託職員の募集の際の情報提供を求めるのが限界かな?と考えています。気を付けないといけないのは、Y法人による将来の情報提供に期限を付けておかないと、Y法人に無期限の義務を課すことになり、「舌足らずの現実的ではない提案」であると採点者に見られて(折角、良いことを書いたのに)減点されるおそれがあることです。

〔出題の趣旨〕  本件事案について、Xの代理人である特定社会保険労務士として、

  本件「あっせん手続」において、小問(4)の「法的判断の見通し・内容」を踏

  まえ、Y法人側の主張事実も考慮し、妥当な現実的解決を図るとした場合、どの

  ような内容の提案をするかについて250字以内で記載を求める出題である。

  本問の解答にあたっては、小問(4)で考察した法的判断をもとにして和解解

  決を図るとした場合にどのような提案が、Xとして双方の主張や事実関係からみ

  て具体的妥当な案として提案し説得的交渉を行う提案内容として考えられるかに

  ついて記載を求めるものである。

 

第2問

小問(1)

(結論)イ

(理由)

弁護士法72条で「非弁護士による法律業務の取扱等が禁止されている」が、同条ただし書で他の法律で別段の定めがあれば許容されるとされているので、社労士法2条を根拠に特定社会保険労務士は紛争解決代理業務を受任できる。しかし、特定社会保険労務士は同法同条2項3号であっせん手続の開始から終了までとの和解契約交渉の可能な期間の限定を受けているので、本件あっせん手続が合意不成立により打ち切りで終了した後は、甲はA社の代理人を継続することは出来ないからである。

(解説)

 登場人物の機能・役割は、次のとおりです。

A社:元従業員Bから300万円の損害賠償請求のためのあっせんを申請された。そのあっせんの代理人として特定社労士甲を起用した。当該あっせんは、合意不成立で打ち切り終了となったが、その後Bから甲を通じて和解交渉の再開を提案された。

B: A社の元従業員でA社を相手にあっせんを申請したが、合意不成立で打ち切り終了となった。その後、A社の代理人だった特定社労士甲を通じて、和解交渉の再開を提案した。

特定社労士甲:BからA社を相手として申請されたあっせん手続のA社の代理人であったが、打ち切り終了となった後に両者の和解交渉を再会するにあたり、A社から代理人を依頼された。

 弁護士法72条と社労士法2条の内容の正しい理解があれば、易しい問題だったと思います。逆に言うと、これらの条項を知らなければ、手も足も出ない難問なったのではないかと思います。

 注意しなければならないのは。設問に『「受任できる」「受任できない」の結論を解答用紙に記号で記載し』と書かれているので、解答用紙の該当欄には、「イ」とだけ書くことです。「(イ) 受任出来ない」と書くと減点されても文句は言えませんから、問題文は細心の注意を払って読みましょう。

 

〔出題の趣旨〕   開業の特定社会保険労務士甲は、A社の代理人として、同社の元従

   業員Bが個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律に基づき都道府県労働局長

   に申し立てたセクシャル・ハラスメント被害を理由とする300万円の損害賠償

   請求のあっせん事件に対応した。あっせんの期日において、甲はA社の代理人

  して解決金100万円の支払いを提示し、Bは要求を150万円まで引き下げて、

  互いに歩み寄ったが、結局、解決金の金額が折り合わず、同事件は、合意不成立

  により打ち切り終了となった。

   その1週間後、甲は、Bから電話で「あっせん期日では、もう少しのところで

  合意できなかったが、解決金として130万円を支払ってくれるのであれば、合

  意して紛争を解決したい。」という連絡を受けた。甲は、これを直ちにA社の社長

  に報告したところ、社長は、甲に対し、「120万円までなら支払う用意があるの

  で、早急にBと交渉して和解の合意を取り付けてほしい。」と依頼した。

  このような事実関係の場合に、甲は、A社からの和解交渉の依頼を受任するこ

  とができるかを問う出題であり、「受任できる」「受任できない」の結論を解答用

  紙に記号で記載し、その理由を250字以内で理由欄に記載を求めるものである。

  本問は、紛争解決手続代理業務の範囲(限界)を問う問題であり、解答にあたって

  は、社会保険労務士法2条3項が定める紛争解決手続代理業務のうち、和解

  交渉は同手続の開始から終了に至るまでの業務であり、同手続終了後の和解交渉

  を含まず、これを行うことは弁護士法72条が禁ずる非弁護士による法律事務の

  取扱いとなることの理解を前提に、具体的な事実関係への当てはめを求めるもの

  である。

 

小問(2)

(結論)イ

(理由)

本件C社から乙への依頼は、社労士法22条2項の言う「相手方」が存在せず、同法同条に抵触して業務を行えないとはならない。しかし、乙はC社の元従業員Dに対して、C社に知らせていない個人的な貸付金があって、その回収が滞っており、乙が本件紛争でC社の代理人となった場合、乙がC社から多額の損害賠償金をDに取得させてその金銭の中から自らの債権回収を図ることが可能になるので、乙とC社は利益相反関係に立つことになる。よって、乙がこれを受任すれば、社労士の公正、誠実、信用、品位などを害することになるから。

(解説)

 登場人物の機能・役割は、次のとおりです。

C社:元従業員Dから500万円の損害賠償請求のためのあっせんを申請されている。

D: 元の使用者であるC社を相手に、あっせんを申請している。特定社労士乙に対して約250万円の未払の金銭債務がある。

特定社労士乙:C社の顧問社労士。Dが申し立てたあっせん手続のC社の代理人を依頼された。C社には知られていないDに対する未回収の貸付金があり、どうやって回収するかについて悩んでいた。

 素直な受験生は、特定社労士乙とDは債権回収をめぐって対立関係にあるから、乙はC

社のために全力を尽くしてDをやっつけるだろうと考えたのではないか?と推測しています。ところが、人を疑うのが習性になっている受験生は、特定社労士乙が自分の依頼人C社を負けさせてDにお金を得させた後、自らの債権回収を図るという嫌らしいストーリーに気付いたのだと思います。これを下衆の勘ぐりというか、老獪と言うかは別にして、設問の行間を読まなければならない、難しい問題だったと思います。

〔出題の趣旨〕   C社は、退職勧奨により4ヵ月前に退職した元従業員Dから、退職

   強要や在職中のいじめ・嫌がらせを理由として、不法行為に基づき500万円の

   損害賠償を請求する内容のあっせん手続を県の労働委員会に申し立てられた。

   開業の特定社会保険労務士乙は、長年にわたりC社の顧問を務めており、C社

   の役員・従業員に知り合いが多かったが、特にDとは、DがC社を退職するまで

   プライベートで親しく交際していた。約3年前、乙は、Dから懇請されて300

   万円を無利息、無担保、期間3ヵ月の約定で貸し付けた。しかし、Dは期限を過

   ぎてもこれを返済せず、乙が繰り返し督促しても、「カネがない」と言いつのる   

   ばかりで、少額を返済しただけであった。Dに対する貸付金は、現時点でも約2 

   50万円の残高が残っており、乙は、自分の資金繰りが苦しいこともあって、一 

   体どうしたらDから返済してもらえるのか思いあぐねていた。なお、Dに対する

   上記貸付は、C社の業務とは無関係な私的な貸し借りであり、C社はこの事実を

   知らず、かつ、乙は、将来にわたり、この事実をC社に開示する意思は一切な

   い。乙は、C社から、Dが申し立てた上記のあっせん事件について、C社の代理  

   人として対応するよう依頼された。

    このような事実関係の場合に、乙は、C社からの依頼を受任することができる

   かを問う出題であり、「受任できる」「受任できない」の結論を解答用紙に記号

   で記入し、その理由を250字以内で理由欄に記載を求めるものである。

    本問は、依頼者の利益と自己の経済的利益とが実質的に相反する場合における

   特定社会保険労務士の倫理を問う問題であり、解答にあたっては、具体的な事実

   関係に照らし、依頼者の利益と乙自身の個人的な利益とが実質的に相反する関係

   にあることを摘示したうえで、それが社会保険労務士法22条の列挙する業務を

   行い得ない事件類型には該当しないことを踏まえつつ、社会保険労務士としての

   信用、品位及び依頼者に対する信義誠実の観点から、なお受任できない事件とな

   るかどうかについて考察を求めるも

追伸-1

 これからの記事の目次を次に書きます。毎週土曜日の午前零時に記事が公開されます。

10月1日  第6回第2問(倫理事例問題)の解説

10月8日  第7回第2問(倫理事例問題)の解説

10月15日 第8回第2問(倫理事例問題)の解説

10月22日 第9回第2問(倫理事例問題)の解説

10月29日 第10回第2問(倫理事例問題)の解説

11月5日  第1問で働き方改革が問われるとしたら?

(以下、未定)

追伸-2

 8月7日の記事「告知4」で、本年度の塾生の募集をしました。8月中旬から入塾された塾生のオリジナル教材による自習と毎週末のオンライン授業が順調に進んで、来る9月23日(祝)に大阪市で対面の授業をやるところまで来ました。

 そこで、今回、10月9日(日)9:45-16:45、阿倍野市民学習センター(大阪市)第2会議室での対面授業をターゲットにして、今から受験勉強を始める方向けに塾生の2次募集をすることにしました。申込み方法等は8月7日「告知4」を見てください。「告知4」よりも塾の内容はブラッシュアップされています。塾の内容について質問のある方も、このブログのコメント欄に書いて(回答用のメルアドも)いただければ、お答えします。

 

追伸3

 

再受験生は、社会保険労務士連合会のWebsiteに受験申込方法が載りましたから、チェックして申込みしてください。老婆心ながら。