TokuteiJuku’s blog

特定社労士試験の勉強と受験

最近の試験問題の構造の分析とその解き方(その1)

 前回までで、第1回と第2回の過去問の解説をしました。第12回からは、第1問(紛争事例問題)の小問の出題形式が、第11回までと違って、だいたい固定しています。一方、第2問(倫理事例問題)は、第17回は第16回と違う法令の条項を対象にして(論点)違う質問の仕方をしてきました。しかし、第17回で出題された論点は、過去問の射程範囲を超えてはいませんでした。

 第3回からの過去問の解説をする前に、第1問(紛争事例問題)と第2問(倫理事例問題)の構造について分析して、第1問を解くための論点ブロックと第2問を解くための法令の条項の逐条解説(独語でコンメンタール)を書いておきたいと思います。

 例えば、第17回(令和3年度)第1問(紛争事例問題)の出題形式(構造)は、次のとおりです。

小問(1)

訴状の請求の趣旨のように「求めるあっせんの内容」を書きなさい。

小問(2)

X(労働者・申請人)の代理人としてXの主張(雇止めが無効)を根拠付ける主張事実を5項目以内で箇条書きしなさい。

小問(3)

Y社(会社・相手方)の代理人としてYの主張(雇止めが有効)を根拠付ける主張事実を5項目以内で箇条書きしなさい。

小問(4)

雇止めの効力について、法的判断の見通し・内容を250字以内で書きなさい。

小問(5)

Xの代理人として、Y社の主張事実を考慮し、かつ、上述の「法的判断の見通し」を踏まえて現実的解決策を250字以内で書きなさい。

 

 第12回~第17回も同じ構造で作られていて、第11回は、その後の小問(4)と(5)を一緒にして小問(4)で解答させる構造になっていました。

 以上を整理して、一体、何を解答しなさいと問われているのかということを要約すると、小問(1)求めるあっせんの内容、小問(2)Xの主張の根拠事実、小問(3)Yの主張の根拠事実、小問(4)法的判断の見通し、小問(5)現実的解決策の5点になります。

 こう整理してしまえば、「なあんだ、たったそれだけのことか、簡単じゃないか」と思われる方もいるかも知れません。しかし、(小問(2)と(3)が裏表の関係にあることを除いて)それぞれの小問に解き方と書き方に作法があって、答案に仕上げるには、結構、事前の準備と本番でのしっかりした答案構成が要ると言うことをここで言っておきます。

 (ここまでも難しかったとは思いますが)ここからの記事は、かなり難しい内容で、量も多くなりますから、民法・労働法の基本書、ポケット六法、法律学小辞典5(できれば前田本も)などを参照しながら、しっかり勉強してください。ここで、基本的な知識をきっちり頭に叩き込んでおけば、第3回からの過去問の解説の理解と未出題の論点への対応の解説の理解が容易になると思うので、頑張って勉強してください。

 

第1問小問(1)**************************

「求めるあっせんの内容」=「請求の趣旨のように」を書きなさいと尋ねてきます。

第16回第1問小問(1)出題の趣旨には次のように書かれています。『解答にあたっては、本問が労働契約上の地位の確認という法的構成による請求を求めているので、「求めるあっせんの内容」は、訴状の「請求の趣旨」のように、地位確認請求の記載と、それに基づく賃金請求の記載を求めるものである。』

 この例のように、特定社労士試験の第1問(労働紛争事例)小問(1)では、あっせん申請をする場合、「求めるあっせんの内容」はどうなりますか?それを訴状の「請求の趣旨のように」書きなさい、と問われるケースがほとんどだと思います。

 既に、過去問の解説を書いた、4月23日付け第1回試験問題の解説(その2)の第1問小問(2)の箇所および5月7日付け第2回試験問題の解説(その1)の第1問小問(1)の箇所を参照してください。今、読み返すと、これら2回の記事の理解が進むものと思います。

 もう1つ例を挙げれば、第15回(令和元年度)第1問小問(1)は、有期雇用契約の契約期間中の解雇の事例で、「・・・本件解雇の無効を主張し・・・求めるあっせんの内容はどのようになりますか?」と問われています。河野順一さんの過去問集の模範解答例では、①「申請人Xは、相手方Yに対し、労働契約上の地位を有することを確認する。」となっているはずです(②給付訴訟の回答省略)。これは、繰り返し出題されて来た「求めるあっせんの内容」=「請求の趣旨のように」として、同模範回答例のように書けば正解とされてきましたが、何かおかしいとは思いませんか?

 「本件解雇の無効を主張し」と書かれているのに、なぜ、「申請人Xは、相手方Yによる令和元年9月末日付け解雇は無効であることを確認する。」と書かないのか???

 (またまたややこしい話になりますが)これは、民事訴訟法の確認訴訟における確認対象選択の適否の問題です。この点については、前述の参考図書の1つである「労働紛争処理法」山川隆一著弘文堂(以下、「山川紛争処理本」と略称します。)P140-143に詳しく説明が書かれています。簡単に言うと、過去の解雇の無効の確認を求める訴えは、過去の法律行為の確認を求めるものとして訴えの利益がなく、原則として、認められないので、現在の法律関係(雇用が継続している)を対象とするものとして訴え(確認)の利益を裏側から認めてもらうという請求をしているのです(地位確認訴訟と呼びます。)。ここで民事訴訟法の知識が要ると言うことがお分かりいただけましたね。

 確かに、解雇無効なら、模範解答例の書き方を決まり文句として覚えて書けば、それでOKなのかもしれません(「訴えの利益」なんて言葉は知らなくても)。しかし、例えば、①配転辞令の無効、②出向辞令の無効、③いったん書いて提出した辞職願の無効(民法改正後は錯誤も含めて取消)、④内定取消の無効などの場合は、どうでしょうか?

 山川紛争処理本によれば、①は「配転先Aでの就労義務が存在しないことを確認する(過去の法律行為だから消極的確認訴訟になる。)。」、②は「出向先Bでの就労義務が存在しないことを確認する(過去の法律行為だから消極的確認訴訟になる。)。」となっていますが、③と④については、直接の言及がありません。例えば、詐欺・強迫・錯誤に基づく瑕疵ある意思表示を原因とする辞職願を取消(遡って無効)にしたいなら「令和○年☓月△日付けで申請人Xから相手方Yに提出された辞職願の取消を求める。」という形成訴訟ができるのか、それとも「申請人Xが、相手方Yに対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。」という地位確認訴訟の形態をとるのか?と迷います。④については、「令和○年☓月△日付けで相手方Yから申請人Xに通知された内定取消の取消を求める。」というのはいかにも変ですから、例えば「申請人Xが、相手方Yに対し、令和○年☓月△付けで雇用契約を締結する権利を有する地位にあることを確認する。」とするのかな、と考えます。

 何を言いたかったのかというと、第1問小問(1)は、配転10点でも侮ってはならないし、山川紛争処理本には、その解答に役立つ個別労働紛争を民事訴訟法的観点から分析して、「第3部 労働法における要件事実」に整理してくれているので、答案を書く際の理論的根拠の学習に役立つと言うことです。ただし、改正民法と改正労働契約法は反映していないので、この点は注意が必要です。第1問小問(1)における(未払い賃金などの)給付請求部分を書く際の注意点については、4月9日付けザックリした話(その3)中の「第16回(令和2年度)民法の勉強法(補足)」に記載してあります。

 それでは、「具体的にどう書くか?」という視点から、各回ごとにもっと掘り下げてみましょう。

 

第1回(このときだけ小問(2)です。)

 解雇無効を訴えているので、「雇用契約上の地位を確認する」、無効な解雇がなければ当然「支払われていたはずの毎月の賃金を支払え」との2点を請求することになりますが、本問では、Xの退職日が5月31日(退職時に5月分は支払済み)、Xの6月分賃金の支払期日が6月25日、特定社労士試験日が6月17日でしたから、まだ6月以降の毎月の個別の賃金債権の期限が到来して債務不履行に陥っている訳ではない(支払の遅延はない)のですが、今後解決までに数か月を要することも考えられるので、支払済みまでの遅延損害金年6%(民法改正前の商事債権、改正後は3%)まで併せて書いて請求すべきだと私は思います。第1回の特定社労士試験でそこまで気の付いた受験生がどれだけいたでしょうか・・・。また、出題者がそこまで要求していたのかも不明です。

(注)民法改正前は株式会社の行為はすべて商行為なので、民事法定利率5%ではなく、商事法定利率6%が適用されていました。

第2回

 解雇無効を訴えているので、「雇用契約上の地位を確認する」、無効な解雇がなければ当然「支払われていたはずの毎月の賃金(夏冬のボーナスも)を支払え」との2点を請求することになりますが、本問では、Xの退職日が9月30日(退職時に9月分は支払済み)、Xの10月分賃金の支払期日が10月25日、特定社労士試験日が11月25日でしたから、申立時点で10月と11月分の賃金の支払期が到来しています。12月分以降の毎月の個別の賃金債権が確定して債務不履行に陥っている訳ではない(支払の遅延はない)のですが、第1回と同様に10月分以降の遅延損害金の請求をしておくべきと考えます。

第3回

 解雇無効を訴えているので、「雇用契約上の地位を確認する」、無効な解雇がなければ当然「支払われていたはずの毎月の賃金(夏冬のボーナスも)を支払え」との2点(ボーナスを独立させて3点も可)請求することになりますが、本問では、Xの退職日が10月31日(退職時に10月分は支払済み)、Xの11月分賃金の支払期日が11月25日、特定社労士試験日が11月24日でしたから、まだ毎月の個別の賃金債権が確定して債務不履行に陥っている訳ではない(支払の遅延はない)のですが、上記第1回・第2回と同様に、支払済みまでの遅延損害金年6%(民法改正前の商事債権、改正後は3%)を、併せて書いて請求すべきだと私は思います。第3回でも、まだ、そこまでは気の回る受験生は少なかったのかな?と推測します。

(注)ここまで検討してきて気付いたのですが、すべての設問で、退職の日までの賃金は退職の日に支払われていて、(4月9日の記事に書いた)在職中に未払いになっていて「賃金確保法第6条の14.6%」が適用になるケースはないのですね。出題者が、この14.6%を知っているかどうかで点数に差が付くことを避けたのかな?と勘ぐってしまいます。

第4回

 「ただし、残業手当及び遅延損害金の請求は書かないでよいこと。」と、この回で初めて遅延損害金の記載は不要との注意書きがあらわれましたが、本当は、第1回~第3回にも設問にもこのように書いて置いて欲しかったなあ、と思う、今日、この頃です。第1回~第3回で、遅延損害金について回答に記載した受験生は得点がプラスされたのでしょうか?

採点基準がどうだったかは、知るよしもありません。

第5回

解雇無効を訴えているので、「雇用契約上の地位を確認する」、無効な解雇がなければ当然「支払われていたはずの毎月の賃金を支払え」との2点を請求することになります。本問では、Xの退職日が9月30日、賃金は毎月分を翌月10日払いとなっているので、退職時には未払いの9月分を10月10日に支払い、10月分以降は11月から毎月翌月10日払い、併せて支払済みまでの遅延損害金年6%(民法改正前の商事債権、改正後は3%)を請求するのが妥当と考えます。なぜなら、第3回までは遅延損害金について一切触れていなかった(黙殺してきた)のに、第4回でその存在について触れたのだから、第5回からは、断り書きの無い限り遅延損害金の請求をすべきと考えるからです。老婆心ながら、本問では、毎月の賃金額を何円と決めて請求するか?も問われていますので、そこにも注意を払ってください。

第6回

問題文では遅延損害金の記載について触れていません。よって、遅延損害金の記載が必要と考えます。

第7回

 問題文では遅延損害金の記載について触れていません。よって、遅延損害金の記載が必要と考えます。

第8回

 「ただし、遅延損害金の請求は記載しないでよい。」となっています。

第9回

 「ただし、賞与、遅延損害金の請求は記載しないでよい。」となっています。

第10回

 「ただし、賞与、遅延損害金の請求は記載しないでよい。」となっています。

第11回

 「遅延損害金の請求も含めて解答用紙第1欄に記載しなさい。」と正面から遅延損害金の記載が要求されています。

第12回

 出向命令の無効を争う設問で、未払賃金の請求、損害賠償請求等はありません。

第13回

 「ただし、遅延損害金の請求は記載しないでよい。」となっています。

第14回

 「ただし、遅延損害金の請求は記載しないでよい。」となっています。

第15回

 「ただし、遅延損害金の請求は記載しないでよい。」となっています。

第16回 

 「ただし、遅延損害金の請求及びいわゆるパワーハラスメントによる損害賠償の請求については除くものとする。」となっています。

第17回

 「ただし、遅延損害金の請求は除くものとする。」となっています。

 

(注)全部検討してきて気付いたのですが、消滅時効が成立していて請求人が請求を諦めるとか、(時効を理由に)相手方が請求を拒絶するとかいう設例はありませんでした。改正民法施行後、5年間(2025年4月1日まで)はないのかなと思う、今日、この頃です。もう一つ。やっぱり、年14.6%の遅延損害金が発生する設例もありませんでした。しかし、こちらの方は、今後、絶対出題されないという保証はないので、問題文を注意深く読むことを怠らないでください。

 加えて、損害賠償金の請求をするなら、「遅延損害金の記載は不要」と問題文に書かれていない限り、「支払い済みまで遅延損害金年3分(パーセント)の支払いを求める」という記載は必要だろうと思います(14.6%部分があるかどうかは、設例次第です。)。

 

 以上の検討結果を受けて、「求めるあっせんの内容」の定型文言例を挙げておきます。これらを覚えて、実際に書く練習をしておくと、本番でもスラスラ書けるので、得点源にできます。

 

(1)解雇無効の場合

「Xは、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する(ことを求める)。」

(注)かっこ書きの部分は、あってもなくても構いません。

「Y社は、Xに対し、令和X年10月から、毎月25日限り金OO万円を支払うこと(およびこれらに対する各支払日の翌日から支払い済みまで年3分(パーセント)の割合による金員を支払うこと)。」―――――――9月末に退職し賃金が当月25日払いになっている場合

「Y社は、Xに対し、令和X年10月1日からの賃金として、同年11月以降毎月25日限り金OO万円を支払うこと(およびこれらに対する各支払日の翌日から支払い済みまで年3分(パーセント)の割合による金員を支払うこと)。」―――――9月末に退職し賃金が翌月25日払いになっている場合

 

(注)時間外手当の請求が伴う場合、賃金の一部だけを請求する場合(例、交通費を除く。)、賃金が出勤日数で決まる場合、内訳を書く場合などは、工夫が要ります(例、第5回)。

 

「Y社は、Xに対し、令和*年10月1日以降も在職していたら支払われたはずのボーナスの支給がある場合は、その金員につき、夏期は7月++日限り、冬期は12月++日限り支払うこと(およびこれらに対する各支払日の翌日から支払い済みまで年3分(パーセント)の割合による金員を支払うこと)。」―――――――――9月末に退職し会社業績等によってボーナスの支給の有無が変動する場合

 

「Y社は、Xに対し、令和*年10月1日以降も在職していたら支払われたはずのボーナスについて、夏期は金OO万円を7月++日限り、冬期は金XX万円を12月++日限り支払うこと(ならびにこれらに対する各支払日の翌日から支払い済みまで年3分(パーセント)の割合による金員を支払うこと)。」―――――――――金額は別にしてボーナスの支給が確定している場合

 

(注)そもそもボーナスは会社業績と個人成績に基づいて支給されるものですから、過去に何円支払われたか、月給の何か月分支給されたかだけでは決まりません。しかし、申請書には具体的な金額を書く必要があるので、ここを何円と書くか(控えめに書いても欲深く多い目に書いても無効にはならないの)で、受験生のセンスが問われて、点数に差が付くのかもしれません。

 

(2)出向命令が無効の場合

「Xは、K社に勤務する雇用契約上の義務がないことを確認する。」―――――民訴法の消極的確認訴訟の考え方に基づく(3月27日の記事参照)。訴訟物は「雇用契約に基づく就労義務の存否」です。配転も同様です。

「Y社がXに対して令和*年**月**日付でなしたK社での勤務を命じる旨の出向命令は、無効であることを確認する。」――――この書き方はX(バツ)だと思います。要注意!

 

(3)慰謝料等の損害賠償請求をする場合(過去には第11回のみ出題)

「Y社は、Y社従業員によるXへのいわゆるパワーハラスメント行為による不法行為によってXに与えた人格権侵害および精神的苦痛の慰謝料として金OO万円(ならびにこれに対する令和*年**月**日から支払済みまで年3分(パーセント)の割合による金員)を支払うこと。」

 

(注)「Y社は、Xに対し、金〇〇円(およびこれに対する令和*年**月**日から支払済みまで年3分(パーセント)の割合による金員)を支払うこと。」として、損害賠償の根拠については一切触れないという書き方の方が、訴状なら一般的です(これでも正解)。しかし、あっせんや調停なら、もう少し分かり易く書いておいた方が、話し合いと妥協がスムーズに進むのではないかと考えて上記のように書きました。どちらでも構わないと思います。なお、年3分は改正民法施行後の法定利息に合わせています。

 

「Y社は、Y社従業員によるXへのいわゆるパワーハラスメント行為が労働契約に基づく安全配慮義務違反(契約違反)を引き起こしたことによってXに与えた人格権侵害および精神的苦痛の慰謝料として、金OO万円(ならびにこれに対する令和*年**月**日から支払済みまで年3分(パーセント)の割合による金員)を支払うこと。」

 

(注)不法行為構成で行くか、安全配慮義務違反構成で行くかによって、立証の仕方が違ってくる(拾い上げる事実が一部違う)ので、要注意です。この点で、出題しにくいのかもしれません。ただ、改正民法によって、消滅時効の期間が統一されたので、特定社労士試験では、単独の加害者の暴力などのように加害行為、故意または過失、責任能力、違法性、損害の発生、因果関係の立証で上司等(加害者)の不法行為責任の追及が容易な場合は不法行為構成で考えて、使用者の「事業の執行の範囲内の行為」に起因するとして、使用者責任民法715条)で会社に損害賠償請求する方が回答しやすいのは明らかです。一方、職場環境の問題(上司・同僚など複数による暴力以外のイジメなど)のときは、使用者(会社)の安全配慮義務違反(職場環境配慮義務違反:債務不履行)で責任追及する方が自然だと思いますが、どのような職場環境を維持する義務が使用者(会社側)にあったか(例えば、労働施策総合推進方や男女雇用機会均等法を使えるかもしれません)を立証して、その義務違反があったことを立証すると言うことは、無過失でも良いとは言え、かなりハードルが高いのではないか?と思う、今日、この頃です(ハラスメントの論点については、後日、解説します。)。

 また、単独の加害行為があって被害者に損害が生じた場合と長期にわたる加害行為の結果、病気や怪我が発症した場合では、被害者が損害の発生時点(消滅時効の起算点)の特定の判断の難しさが違うと言うことはお分かりいただけると思います。

 余談になりますが、パワハラやセクハラの不法行為は人間が行うものですから、民事訴訟なら当該加害者(上司等)と使用者(会社)を一緒に訴えることも、別々に訴えることも出来ます。いっぽう、労働者と使用者の間の個別労働紛争の解決が目的である調停やあっせん手続では、当該加害者(上司等)を相手方とすることはできないので、あくまでも相手方は使用者(会社)だけになるということを覚えておいてください(老婆心ながら)。

 

第1問小問(2)**************************

 例えば、解雇(例、整理解雇)を論点とする設例なら、法的三段論法を使って、①解雇権濫用法理(整理解雇)の要件(4要件)を考える、②各要件に当てはまる事実を拾い上げる、③拾い上げた事実がいずれかの要件を満たさなければ、解雇権濫用が成立して解雇は無効となる(すべて満たせば解雇は有効)と検討していきます。

 特定社会保険労務士試験第1問小問(2)の出題形式だと、Xの代理人としては、すべての要件を満たす事実を拾うことができなくても、拾えるだけ拾って書いておけばOK(一定の得点はできる)ということになります。Xが「解雇は無効だ」と主張したら、Y社は「いやいや、解雇権濫用が成立して、解雇が無効になるかどうかは、Y社の拾い上げた事実との勝負です。」と反論することは、言うまでもありません。

 

(注)小問(2)以下を解くための前提として、上述のように、(既に述べた)法的三段論法(規範定立→事実のあてはめ→結論)との流れで、検討を進めていくことと、その過程を小問(2)~(4)の回答として書き留めて行くということを覚えておいてください。もちろん、出題される論点には何があるのかと、その論点を解く規範(要件)を暗記しておくことが、それを実行する前提になります。

 

 

第1問小問(3)**************************

 小問(3)は小問(2)の裏返しで、Yの主張の根拠事実を要件にあてはめて拾い上げると言うことになります。

 

 

第1問小問(4)**************************

 次に小問(4)では、小問(2)のXの主張と小問(3)のYの主張のどちらがどう強いのかを評価して、どちらが勝つのか?を決めます。ただし、例えば、第2回第1問でXが主張する解雇権濫用の成立には事実が少し足りない一方、Yが主張する就業規則の解雇事由該当性の事実が少し足りないということもあります。

 提供されている事実のどこに重点をおいてどう評価するかというのは、結局、受験生の見識や経験によって判断されることになります。また、完全に勝敗が決められずに、どちらかが多少有利という程度の判断になることもあります(と言うより、そのような出題の方が多い。)。

 気を付けなくてはならないのは、小問(4)の法的判断の見通しが、小問(5)の現実的解決策を考える基礎になるということです。小問(4)で勝ち目がある(強い)と判断したなら、強い立場での解決策を提示しますし、勝ち目がない(弱い)と判断したなら、弱い立場での解決策を提示します。決して、この逆パターンにしないでください。

 小問(4)の「法的判断の見通し」とは、簡単に言ってしまえば、「X(労働者・申請人)とY社(雇用主・相手方)のどちらに勝ち目があるか?」を問われています。答案に書く内容としては、①「どちらが勝ちそうか(有利か)?の結論」と②「そう考える理由」ということになり、その順番も①②と書いた方が採点者が読みやすいでしょう。くどくどと前置きを書いた挙げ句に、「どちらの言い分ももっともで、白黒がつきません」などという結論を書くのが最悪の答案になると思います。なぜなら、「法的判断の見通し」を尋ねられているのに、「色々検討し(悩んだ)たけど、判断がつきませんでした。」では、答えになっていないことは自明だと思います。

 そこで、なんとしてもXとY社のどちらに勝ち目があるのかを決めなければなりません。この結論を自分の経験や勘で、「エイヤ!」と決めてしまってから理由を考えて、結局つじつまが合わなくなると言うことも少なくないので、ここは、やはり、先に理由の部分の検討してみて、そこから結論を導き出すというのが常道だと思います。理由の部分の検討をしたけど、どっちの言い分にも理があって、甲乙付けがたく、最後は自分の経験と勘で、「エイヤ!」と結論を選ぶと言うことは有りだと思いますが、まずは、理由の部分の検討をしてみてください。

 そこで、この理由の部分の検討をどうするか?ですが、小問(2)のXの主張事実と小問(3)のY社の主張事実を見比べてみて、立証責任を負っている方が、当該論点の要件(例えば、整理解雇の4要件)をきっちり満たすような事実を拾い上げて並べているなら立証責任を負っている側の勝ちだし、その反対側当事者が、要件の一部でも欠けているとの事実を書き出しているなら、その反対側当事者の勝ちになります。ただし、一つの事実(例えば、Y社の経営状態)をXは「危機的な状況ではなかった」と主張し、Y社は「危機的な状況であった」と主張していて、設例に書かれている情報からだけでは、どちらの主張が正しい(真実)か分らない(判断出来ない)といったことがよくありますから、設例の「Xの主張」と「Y社の主張」をよく読み込んで(精査して)、判断の手がかりとなる情報(例えば、新卒採用を継続していたとか、メインバンクに追加融資を断られたとか)探したうえで、自分はこの情報から、「整理解雇の4要件を満たしていると判断した」とか、「4要件の内のこの要件を欠いていると判断した」とかいう理由を書いていくことになります

 

第1問小問(5)**************************

 

 最後に小問(5)は現実的解決策を考えて書く訳ですが、これこそ受験生の経験と見識が問われます。雇用契約の存在の確認請求なら、Y社からは復職させるか否か、復職させるなら職場や仕事を変えるか、どうしても復職させたくないので大金を払ってお金で始末をつけるかなど、Xからなはそのまま元の職場に復職するか、人間関係が破壊されている(転職先が見つかったから)賠償金額を吊り上げておいて退職するかなどのバリエーションがありえます。未払い賃金の請求や損害賠償請求なら、何円まで支払うかなどが難しい判断になります。

 以上の構造と解き方・書き方を知った上で、5月2日からの第2回第1問と5月26日からの第3回第1問の解説を読んでいただけると理解が深まると思います。

 ところで、「やっぱり、これなら簡単じゃないか」と思う方がいると思いますが、そうは「問屋が卸さない」(「問屋が許さない」は、誤用です。)。なぜならば、①必ずと言っていいほど論点が二つからみあっていることと、②ここ数年特に[Xの言い分]と[Y社の言い分]の文章量が多くなって書かれている事実がありすぎるので、それぞれの言い分を読んで、そこから必要な事実を抽出し、箇条書になるようにまとめるのに手間と時間がかかることがあるからです。

 ②は過去問を読まれたら実感できると思います。①は、例えば、第16回(令和2年度)第1問なら、「使用期間満了に伴う本採用拒否の有効・無効」が最大の論点なのですが、「Xの上司の教育的指導がパワハラ不法行為)か」という付随する論点があって、Y社から見て、前者の要件をすべて満たして有効だとしても、Xから「いやいや上司のパワハラが原因ですべてが悪い方向に向かった」と反論して「後者の主張・立証に成功すれば」、Y社の「前者は有効という主張」はもろくも崩れ去るということになってしまいます。だから、Y社としては、「使用期間満了に伴う本採用拒否の成立」を主張するための要件を満たす事実を拾い上げて並べる際に、Xが主張してくるパワハラ行為があった事実やその被害(悪影響)を示す事実の評価を、ことごとく否定するように事実を拾って書く必要があるということになります。

 

(注)次回の記事で、今回説明した解き方を第16回第1問に適用したらどうなるかについて、検討する予定です。

 

 Xの主張・立証とY社の主張・立証は表裏一体とは言いながら、Y社(相手方:雇用主)の方の主張・立証が手厚くないといけない(まず、使用期間満了に伴う本採用拒否の要件を満たす事実を列挙する。)というのが、実態だと思います。

余談ですが、私は鉄道会社とメーカーに勤めたことがあり、職場の安全管理については厳しく仕込まれていますから、本問のXのような社員は工場勤務者としては失格だし、上司の行為も当たり前の教育的指導だと思います。そもそも論として、従業員数60名の中小企業で、正社員として雇った若手を、いじめて辞めさせたら、会社にとって損失(採用のムダ、教育のムダ、将来の戦力の喪失等)だし、折角採用した正社員にパワハラをする可能性のある管理職を教育係に任命する訳がない(社長や総務部長の信頼のある人選が当たり前)し、仮にXから不満が上がってきたとして、大企業でもないのに、別の部署で別の管理職に教育担当を代えることが迅速にできるとは現実的には思えません(だからこそ最初の人選には慎重だったはず。)。ですから、私の判断としては、「Xの負け」ということになりました(菅野本P239-240「2.留保解約権行使の適法性」参照)。ただ、この前提条件(背景事情)の部分を小問(4)の字数制限のある解答欄に書くことは不可能で、Xの主張する事実(の評価)を否定しつつ、Y社の主張の方が合理的で、Y社が使用期間満了に伴う本採用拒否の要件を満たした上で拒否したと言うことを書くのが精一杯だと思います。

ここで、問題は、「Xの負け」にすると、小問(5)のXの代理人としての現実的解決策の選択肢が非常に限られてきて、書きにくくなると言うことです。何を言いたいかというと、個人の価値観や見識は別にして、(受験テクニックとしては)小問(5)でXの代理人として現実的解決策を書きやすくするために、小問(4)で「Xが勝つ」という法的判断をするということを原則にするのか?ということです。

私は、流石にここまではやり過ぎだと思いますが・・・。もちろん、時間の余裕をもって全体の答案構成をした結果、小問(5)の書きやすさから逆算して、XとY社のどちらが勝つかの判断をするという余裕のある方は、そうするのもありかなとは思います(例えば、50点/70点以上を目指す方)。もっとも、そのような余裕のある人なら、どちらを勝ちにしても合格答案を書くだけの実力があるのだろうとは思うのですが、私が書きにくい結論を選んで書いても合格できているので、自分の価値観や見識を曲げてまで、そのような姑息な手を使わなくても大丈夫だとは思います。

 

 さて、小問(5)ですが、Xの代理人の立場で、Y社側の主張事実を考慮し、上記小問(4)の結論を踏まえて、現実的な解決策を提示しなさいとなっていますが、まず、現実的な解決策とはどのようなものを意味しているのか?について考えています。

 これは、①小問(4)で「法的判断の見通し」として出した結論と矛盾しないこと(Xが有利なら強気で押せば良いし、Y社が有利ならXとしては大幅な譲歩を覚悟する)、②Y社の言い分の中に含まれた情報(例えば、復職は認めたくないが退職金の上積みなら認めることをほのめかしている。)から、Y社の受け入れやすい提案をすることの2つの要素に分けて考えられます。

 この①の部分は、問題文の「上記小問(4)の結論を踏まえて、」の箇所に対応し、この②の部分は、問題文の「Y社側の主張事実を考慮し、」の箇所に対応しています。

 そして、これら①と②を検討した後、最終的に「現実的な解決策」を導き出すのは、ご自分の経験、知識、価値観等によることになります。

 このブログの記事でも、度々、様々な書物や判決例の情報を提供してきましたが、人が働く職場での紛争の解決策として、ある状況では、何がもっとも相応しいか?というのは、設例で提供された情報からだけでは導き出せず、考えて、考えて、捻り出すことになるかも知れませんし、もし時間がなければ、見切り発車でセカンド・ベストの回答を書いておくということになるかもしれません。

 いずれにしても、全体で6割取れば合格できる試験ですから、(ケアレス・ミスの失点は避けなければなりませんが)全小問で満点を取りに行く必要はないと考えて、与えられた情報から判断して常識的な回答を書いて、余り深追いしない方が得策ではないか?と考えています。

 

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 ところで、本年度の能力担保研修を受けられる方は、(以前も触れましたが)特定社会保険労務士前田欣也著「個別労働紛争 あっせん代理 実務マニュアル 3訂版」日本法令(以下、「前田本」と略称します。)の「第3章 様々な労使トラブルケースごとの主張書面の書き方(P162-331)」が、集合研修の申請書と答弁書を書くのに大変役に立ちます。書き方の見本とその解説、関係する判例の紹介も載っているので、これを読み込んで、集合研修の答案を書いておくと、試験本番の労働紛争事例問題の論理構成、事実の拾い方、法的判断の見通しなどの参考(というより基準)になると思います。本屋で立ち読みして、使えると思ったら買って読んでみてください。

 一円にもならないのに、他人の書いた本ばかり推薦する今日、この頃、です(笑)。アッ、6月22日の情報交換会、まだ空いています。