TokuteiJuku’s blog

特定社労士試験の勉強と受験

第1回(平成18年)第1問の論点解説

 前回、書きましたが、労働紛争事例問題を解いて行くには、次の「法的三段論法」を用います。

大前提

要件→効果(法命題)

小前提

事実→要件(事実へのあてはめ)

結論

事実→効果(具体的な価値判断)

 第1回特定社労士試験第1問で問われている論点は、①整理解雇の有効性と②勤務地限定特約のある労働者の当該勤務地が廃止になる場合の整理解雇の有効性の2つです。本問では、②の論点については、①の論点の整理解雇の4要素の中の1つである「解雇回避の努力をしたこと」への当てはめとして登場しています。通常、勤務地限定特約の論点は、労働者による配転・出向命令の拒否の場合に問われる論点であり、本文では、逆に、使用者側(会社)が配転・出向を検討して雇用を維持する努力をしたかという疑問を投げかけられているという特異な例です。

 したがって、まず、勉強していただきたいのは、整理解雇の4要件(要素)であり、菅野本ではP793-800「(5)整理解雇」が、安西本ではP979-986「六 不況による整理解雇の場合は特別な要件が必要か」が、中央発信教材ではP449-450「4 整理解雇」が直接の該当部分となります。ただ、整理解雇を含む解雇全体の説明文を読んだ方が理解しやすいので、菅野本はP775~「第7節 解雇」から、安西本はP951~「第18章解雇をめぐる法律知識」から、中央発信教材ではP446~「第3 解雇の手続」から読まれることをお薦めします。

 勤務地限定特約の論点がどのようなものか興味の湧いた方は、菅野本のP727-735「1.配転」の中にあるP730-731「(イ)勤務場所の限定」か、安西本のP796-797「企業の危急存亡時の配転等の特例」か、中央発信教材P298-299「2.配転命令権の乱用の問題」を読んでください。ちなみに、第10回試験で、勤務地限定特約と整理解雇について、が最重要論点として問われていますので、第10回のときにもっと詳しく説明する予定です。

 参考までに私の昨年作ったメモの抜粋を貼りますが、手を抜かず、基本書をきちんと読んでください。

第1回

(1)  整理解雇の4要素(総合判断)

① 人員整理の必要性――――――企業の維持・存続が危ういほど差し迫った必要性

② 解雇回避の努力―――――――解雇回避のあらゆる努力が尽くされたこと。

③ 整理解雇対象者選定の合理性―――解雇対象労働者の選定基準・人選が客観的で合理的であること。

④ 整理手続の妥当性――――――労働者個人および労働組合に事前に十分な説明をして了解を求め、解雇の規模、時期、方法などについて、労働者側の納得を得る努力が尽くされたこと。

(2)  勤務地限定特約(当該勤務地の事業所が閉鎖の場合の整理解雇)

① 勤務地限定で現地採用された労働者の場合、本来、他の事業所への配転命令を受けることがないので、当該勤務地の事業所が閉鎖されれば、原則として、労働契約は終了する。

② しかし、そうした場合でも、当該配置転換を希望していて、配置転換の可能性が肯定できる場合には、労働者の意向を十分に汲み取ることが必要とされる。

③ 他の支店・事業所または本社への転勤を伴う配転でも、本人が望めば検討しなければならない。ただし、当該閉鎖される事業所が独立採算で、採用も独自にしていれば別。

 以前から何度も述べてきましたが、特に、第1回と第2回は、特定社労士試験初年度で、人生経験と社会経験の豊富なベテラン社労士が主な受験生でした。そこで、能力担保研修も試験問題も、そのような人たちへの配慮(ボーナス)がなされていたのではないか?と推測しています。いわゆる法的三段論法を使わずに回答できる問題が含まれています。ベテランで似たようなシチュエーションを経験していたら回答は簡単なのですが、新人で経験がないとどう回答したらよいのかと悩んだうえで、なんとか答えをひねり出さなければならなくて苦労したのではないかと推測します。

 例えば、第1回第1問小問(5)は、「Xとしては、Y社側からXに対して振り込まれた2ケ月分相当の退職金についてどうすべきでしょうか。具体的な対応策についての見解を解答用紙第5欄に200字以内で記載しなさい。」です。一方、出題の趣旨は、「会社から振り込まれた2ケ月分相当の退職金について、そのまま受領してよいか、解雇の承認の問題についての理解を問うもの」となっています。

 この問題は、どこから来たか?実は、安西本P1003-1004「十一 解雇予告手当や退職金の異議なき受領は解雇の承諾となるか」に、昭36.4.27最高裁二小判決・八幡製鉄事件と昭和35.1.27大阪高裁判決・八木組事件を引用して、この問題の解説が書かれていますので、安西本をお持ちの方は、そこを読んでください(残念ながら、菅野本には載っていません。)。結論だけ書くと、解雇された労働者が異議なく特別退職金を受領したら、「解雇の承認」をした黙示の承認があったことになるという最高裁判決と異議を留保して受領した場合は承認にはならないという大阪高裁判決があるということです(次回書きますが、この判例の考え方に引っ張られて、私の思考(検討)が迷走します。)。

 上述の判例の考え方を踏まえた回答のポイントとしては、①XとしてはY社に対し、解雇を承認したわけではないので、(賃金の)2ケ月分相当の特別退職金名目の金員を受領する意思はないことを、②後の紛争の際に証拠となる方法で伝える必要があります。ベテランなら、「あっ、それなら内容証明郵便で、解雇の承認拒否と特別退職金相当額は受領せずに預かっておくと伝えておけばよい」とピンときて、10点満点の少なくても5点はゲットとなったかもしれませんが、新人なら①の方は思いついても、②のほうは果たしてどうしたものか?と悩むのではないかと思います。

 ここから、②をどうひねり出すか?が6点取れるかどうかの分かれ目です。要するに、①の内容を相手(Y社)に伝えたことを後日証明ができれば良いわけです。例えば、LINEでのやり取りなら、通信の内容・当事者・日時まで記録出来ますし、FAXを送信すれば、受信のFAX番号と受信日時の記録が残ります。私の経験から言うと、内容証明郵便に配達証明を付けて送付するというやり方は、余りに好戦的に見えるので、手紙のコピーを残して、簡易書留にして郵送するというソフトな方法でも、後日、相手は手紙を受け取っているのに、こちらのコピーとは違う内容だと主張するのは難しいし、本問の内容程度の意思表示を否定するというのも大人げない(見苦しい)ので、こちらの主張が通る可能性は高いと思います。よって、新人の方たちがそのとき思いついた上述の代替方法で、その写しや記録をのこしておくという回答でも、②の半分ぐらい(内容証明が5点なら2か3点)は回答したことになるのではないか?と考えています。だから、もしこんな場面に出会ったら、そのものずばりの知識や経験がなくても(諦めずに)、採点者が求める回答のポイントから逆算して、何とか回答をひねり出してください。

 ここで、相殺(民法505条1項)について、少し勉強してみてください。Y社が特別退職金名目で振り込んできた賃金の2ケ月分相当額は、本来、XからY社に返還すべき(受け取る理由のない)金員です。一方、解雇が無効だったらXがY社からもらえるであろうと期待している未払い賃金は、Xの勝ち(解雇無効)が決定していない以上、まだ、もらえるかどうか分らない未確定の債権です。だから、筆が滑って、内容証明郵便に「特別退職金名目の振り込まれた金員と未払いの賃金相当額を相殺する」とまで記載したら、出来もしない(相殺適状にない)相殺の意思表示をしたことになり、減点の対象になると思いますから、要注意です。詳しくは、民法の基本書で調べるか、法律学小辞典5にP808-809に「相殺」、P809に「相殺適状」と「相殺の抗弁」が載っているので、それらを見てください。

 そうそう、毎回小問(1)で問われる、無効な解雇期間中の賃金を請求することについて、菅野本P802-803の(8)解雇の無効とP803-805の(9)解雇期間中の賃金に請求出来る根拠のことが書かれていますから、(この論点を問われることはないと思いますが)菅野本をお持ちの方は読んでおいてください(残念ながら安西本には、載っていません。)。

 と、ここまで書いて、重要なポイント③が抜けているのに気付きました。ヒントは、出題の趣旨に「そのまま受領してよいか」と書いてあります。単に、「退職金としては受領しません」と通知したら受領(自分のものにする)しても構わないのでしょうか?次回、検討の過程と結論を書きます(ここから迷走します。)。