TokuteiJuku’s blog

特定社労士試験の勉強と受験

第18回(令和4年度)特定社会保険労務士試験に向けて

 昨年(2021)年3月20日にこのブログを開設してから、約1年が経過し、記事も100本を超えました。昨年の第17回(令和3年度)試験に向けてのブログの記事は、かなり無計画というか、とにかく合格のために必要な情報の質と量を確保するという方針の下、私が気がついたことを忘れずに書いておくことと、読者のリクエストにお応えすることの2点に主眼をおいて記事を書いてきました(時々、余計なことも書きました)。よって、一気に全部の記事を読んで、受験勉強の参考書にしようとすると、まとまりのない(徒然草のような)膨大なサブノートのようになっていたのだと反省しています。

 この点、本年度は、最初に全体像とスケジュールをお示しして、皆さんのペースメーカーになると同時に、後から、全部を読み返してもスッキリしたものにしたいと考えています。それと、私のコラムのような記事は、独立した記事として書くことは止めて、気が向いたら時に、記事の最後に追伸として書くことにしました。また、これから初めてこの受験勉強を始められる方が多いと思われますし、受験勉強用の情報の内容が昨年度と大きく変わるようなことはないので、昨年度の記事を再度掲載する(適宜修正して)ことを多用しよう考えています。よって、昨年度の記事をもう一度読み返す必要はないものと思われます。

 さて、第18回(令和4年度)の試験に向けて、このブログの内容とスケジュールをここで予告しておきます。

1.記事は、3月26日(土)から7月30日(土)までは、毎週、土曜日の午前零時 (金曜日の夜中)にアップします(その後は、進捗を見て、また考えます。研修の前に は研修の準備と受け方の説明なども。)。

2.記事の内容の概要とそのアップする順番は、次のとおりとします(予定なので変更になることはあります。)。

(1)試験の手続と内容の全体像つまりザックリした話(受験申込から能力担保研修を経て受験までと出題内容、連合会から提供される教材、参考図書、勉強の仕方、研修の受け方など)

(2)第1回の過去問の詳細な解説(最近はずいぶん変化しているとは言え、これが肝ですから。)

(3)最近の試験問題の構造の分析(大きくは、第1問(労働紛争事例問題)・第2問(倫理事例問題)で、それぞれが小問に分かれています。各小問の趣旨と回答の仕方とその理由。法的三段論法など。)

(4)労働紛争事例問題を解くための論点ブロック(論点ごとの要件を記載)とその使い方

(5)倫理事例問題を解くための社労士法等の関連条文の逐条解説とそれらを駆使して回答を作っていく手順

(6)第2回から第14回までの過去問の回答例と解き方の解説

(7)過去に出題されていない論点(新分野)についての考察

(8)第15回~第17回の過去問の解説などは、進捗具合を見ながらスケジュールを考えます。

(10)9月~11月の能力担保研修に関する情報提供は、9月になってから始めます。

3.おそらく、これらの記事(すべてWordで、先に原稿を書いています。)を全部印刷するとA4で500ページを超えるものと考えられると思われるので、塾生向けに、別途、200ページ以内に集約した参考書と練習問題集を作りたいなと考えています。それと、9月に募集予定の塾生には、昨年同様、通信添削をやりたいと考えています。

4.過去問とその出題の趣旨等は、全国社会保険労務士連合会のWebsiteに掲載されています。まずは、どんなものか一度見てみることを進めします。ログイン後、「業務関連情報」→「紛争解決手続代理業務」→「紛争解決手続代理業務試験について」の順番でたどって行くと、すべての過去問等がアップされています。

 以上の段取りで進めますから、検索エンジンでこのブログにたどり着いた方は、今回より、前の記事は読む必要がありません。もし、最初から読んだりしたら、頭が混乱するのじゃないかと思う、今日、この頃です。

合格発表がありました。

第17回は、かなり難しかったようで、合格率が低かったですね。出題の趣旨を読みました。だんだん複雑化して細かい論点を突いてくる傾向が明確になりました。そこまで求めるなら、過去問を繰り返して解くと言う方法だけでは、合格ラインに届かないだろうな、と思いました。
明日から、第18回に向けた記事を週一で、毎週末にアップして行きますから、本年第18回を受験予定の方は、毎週末閲覧してください。昨年度より、整理整頓して、読みやすい記事をアップして行きます。
明日、日曜日午前0時に最初の記事をアップします。

特定社労士の受験を薦める理由

まあ皆さん聞いてくださいよ!(人生幸朗調で)

 社会保険労務士の約1/3が特定社労士です。しかし、毎年、社労士試験の合格者数が2,000人超で、特定社労士試験の合格者数が500人前後という状況が続くと、特定社労士の割合は限りなく1/4に近づいていくことは、容易に想像がつくものと思われます。

 では、なぜ、特定社労士試験の受験者数が1,000人前後で定着して漸減傾向にあるのか?

 1つ目の理由は、単に「特定社労士としての個別労働紛争解決手続代理業務の仕事がほとんどないから」資格を取得してもメリットがないと考えている一般社労士が多いからと言えます。確かに、調停やあっせんの代理業務の件数は少ないので、この仕事をばりばりやっていますという人に会ったことはありません。でも、特定社労士試験が易しくて、短時間の要領の良い受験勉強で合格できるなら、資格を取得して箔を付けるメリットがあるのではないのか?という疑問が湧きます。さらに、もし過半数の社労士が特定社労士(多数派)になったら、残りの一般社労士(少数派)は、社労士の2重構造が世間で明らかになって、社会保険諸法令に関する事務の仕事であっても、特定社労士を世間が求めるようになるのではないかとも考えます。

 私のまったく個人的な見解ですが、もう一つ重要な理由があるのだと思います。それは、一般社労士試験と特定社労士試験の対象分野(勉強の内容)と出題(解答)形式がかけ離れていて、前者に合格した一般社労士の大半が後者の試験には(ちょっとやそっとの受験勉強では)太刀打ちできないという現実があると思います。したがって、一回(二回)受験して「もうダメだ」と諦める人や、そもそも特定社労士試験を怖がって受験しない人がたくさんいるから、上述の直接的なメリットの不十分さと相俟って、特定社労士試験の受験者数も合格者数も漸減傾向が続いているのだろうなと考えています。

 現在の一般社労士の仕事でも十分に社会の役に立って、報酬も得られているのだから、あえてリスクを取って特定社労士試験を受験して失敗して恥を掻くよりも、「このままでいいや」と考える人、つまり、「現状に満足してしまって挑戦しない人」が多いのだろうなと推測しています。それも常識的な考え方ではあります。

 しかし、想像してみてください。使用者や労働者が抱えるサービス残業、セクハラ・パワハラ、過労死・過労自死などの問題の解決とその予防策の構築などの相談に乗ることも多い社会保険労務士が、今の社会保険労務士試験に受かっただけで、憲法民法、民訴法、刑法などの法律知識やその運用能力のない、聞きかじり知識しか無い素人だったとしたら、使用者も労働者も恐ろしくて相談に来ませんよね。そう言う意味で、現在、社会保険労務士は労働問題の専門家というのは、少なくとも一般社労士については、世間の側の錯覚ではないかと思います。もちろん、一般社労士でも十分にスキルを備えた人もいるでしょうし、特定社労士試験に合格したレベルで十分とは思いませんが、この程度の低いハードルを超えてこなければ、話にならないだろうというのが私の考え方です(過激な表現で失礼します。)。併せて、特定社労士試験第2問(倫理事例問題)で、弁護士法違反の非弁活動の禁止や利益相反取引概念に関する知識を得るという機会を持たない一般社労士が、以前記事に書いたように労働争議に巻き込まれたりして、危ないなあ!とも感じています。

 つまり、労働相談に応じる際の最低限の能力の保証が特定社労士試験の合格だから、それぐらいは合格してから、労働相談の仕事をやってください、だから、皆さん特定社労士試験を受験して合格してくださいというのが、私が受験を薦める理由です。毎年、2,000人前後が受験して1,000人超が合格する日が来ることを希望しています。

 問題は、憲法民法などの法律の勉強をしたことのない人たちに、働きながら試験勉強させるなら、能力担保研修の申込をする6月から半年ぐらいかけて勉強するように注意喚起するようになっていないことと、適切な教材が用意されていないことだろうなと思う、今日、この頃です。

 これは、あくまで、私の個人的な見解です。責任者は呼ばなくて結構です。どこかから「この泥亀!」と聞こえてきそうですから、先に謝っておきます。「ゴメンチャイ!」

 

 参考までに、こんな話もあります。昔、知り合いの親子弁護士で法律事務所を営む息子の方の弁護士から聞いた話です。彼は、司法修習後、東京の法律事務所に修行(イソ弁)に行きました。その事務所に10年勤めてお礼奉公をしてから、大阪に戻ってお父さんの事務所を継いだ孝行息子の話、ではありません。彼が東京で勤めた事務所のボス弁は、新人には3年間みっちり訴訟ばかりを担当させるという方針だったそうです。ある日、彼がボス弁に尋ねたそうです。「どうして、もっと易しい契約書の作成やチェックや交渉の業務ではなく、難しい訴訟ばかり担当するのですか?」と。ボス弁は、「紛争を予防するための契約書の作成や契約交渉というのは、紛争がどうして発生して、どのように解決されるのかと言うことを、直に勉強した人間にしかさせられない。聞きかじりの知識で、安易に契約書を書いたり契約交渉をすると、後日、思わぬ失敗が見つかって、紛争の種になることがあるから、新人には訴訟をみっちり勉強してもらうことにしてる。」と答えたそうです。

 私の考え方は、このボス弁の考え方に近いと思います。もちろん、特定社労士の受験勉強が、弁護士が訴訟実務を経験することとは比較にならないぐらい易しいことではあるとは思いますが・・・。

 さて、4日から仕事です。4日が仕事始めの方も多いと思います。私は、なぜか、今年は、最初の2週間は、スケジュールが詰まっています。老体には、大変な過重労働ですです。「自由業には、働き方改革はないのか?責任者呼んで来い!」(泣)

 

 

受験生の層(質)が変わったことが原因か?

 前回第2回第2問(倫理事例問題)の解き方の説明をしていて、気になることがありました。初期で易しいはずの第2回特定社労士試験が、社労士法第22条以外(民法会社法)の理解がないと高得点が望めない試験問題になっていることに違和感を持ったのです。

 そこで思い出したのが、能力担保研修の馬橋隆紀弁護士のビデオ講義です。初期の受験生は、ベテラン社労士で社会経験や人生経験が豊富な人が多かったが、最近は社労士試験に合格したばかりの人や、若手で社労士経験の浅い人が多くなっている云々と言っておられたと記憶しています。そこで、「第16回(令和2年度)特別研修 中央発信講義 教材」P9~の馬橋弁護士担当の「専門家の責任と倫理」を読み返しました。

P12にこう書かれています。 

「6.能力担保研修の現状

  • 社労士に代理権が与えられたのは、それまでの社労士の知識や経験を活かすことが前提
  • 能力担保研修は、本来、その知識や経験に上乗せするもの
  • 当初の受講者はそのような人がほとんど
  • 講師との双方向、多方向授業は活発であった
  • 今、受講する皆さんの多くは、最近の社労士の試験に合格した人とか、実務経験の少ない人が多い状況
  • 経験の少ない人は、この制度の由来等も考えながら学んで欲しい」

 

なるほどと、納得しました。第2回第2問は、民法会社法の知識を問うのではなく、社会経験・人生経験の豊富なベテラン社労士の会社や個人の顧客とのつきあいの中で身に付けた肌感覚(職業的な勘)から、Aの持つ社労士甲への期待・信頼とか、B社とD社は一体と考えるべきではないかとか、に気付いてくれたら点を差し上げましょう、社労士としての経験を評価しましょうという出題者の意図があったのではないか?と考える今日この頃です(懐かしい、桂枝雀の口癖)。

 こう考えてくると、10数年後に、過去の問題を現在の論理と知識で解いて行くことに若干の迷いが生じます。あの当時だったら、こういう受験生に、こう答えて欲しいと考えてこう出題したはずだから、当時はこういう答えがベストだったが、現在の状況ではこう回答した方がベストであると、古い過去問には説明用に2種類以上の解答パターンを用意する必要が生じているのかもしれません(やってみなければ分りませんが。)。

 まあ、私は色々考えて見ますので、受験生の皆さんは、自分の時間を興味本位の調査や思索に費やすることなく、私の検討結果から自分に合った解答パターンを身に付けていただければと思う今日この頃です(再び、桂枝雀)。

 上述の教材を見ていて思い出したのですが、第16回能力担保研修には安西愈弁護士の「中央発信講義 労働契約総論 [補講] 」というのがありました。そのビデオ講義のために「特定社会保険労務士の個別労働関係紛争手続代理業務の基礎知識 レジュメ」が送られてきています。この内容は、特定社労士試験第1問(紛争事例問題)の解き方のベースになる情報が載っていて非常に重要です。以前紹介した、山川隆一著「労働紛争処理法」弘文堂を、ギュッと圧縮したようなレジュメです。先に基本書を読んでからこのレジュメを読むと、当たり前のことばかり書いてあるということになります。

 とにかく、第2回第2問の解答例は、次回書きます。ハードルを自分で上げてしまった感じです。

倫理事例問題は社労士法第22条第2項の解釈から始まった。

 

 

 特定社労士試験第1問は労働紛争事例の問題で、今まで述べてきた憲法民法、刑法、民事訴訟法、労働契約法、労働基準法等の知識やご自身の社会経験を駆使して、使用者と労働者の間の紛争を解決するという問題です。一方、第2問の倫理事例問題は、特定社労士の目の前に現れた依頼者の仕事を、現在の他のクライアントや過去の他のクライアントとの利益相反関係や彼らに対する守秘義務から考えて、受任して良いか、それとも良くないか、を社労士法等の数少ない条項を手がかりに判断するという、まったく異質な問題です。私は、第2問の方が、解法のテクニックを見つけ易いし、マスターし易くて、得点源にできるのではないかと考えています(問題文も短いですし。)。でも、つかみどころがなくて、どうして良いか分らず、苦しんでいる受験生がかなりの数いるのも事実です。

 いきなり最近の複雑化した過去問から始めると説明がややこしくなるので、私の古い友人のベテラン特定社労士が冗談で、「第1回は名前を書いたら誰でも受かった!」と言っていた(第1回を受験して合格された方で、同様に言われる方は何名かおられますが、あくまで大阪人特有の自虐的ギャグにしておられるのだと思います。)第1回(平成18年度)特定社労士試験の第2問(社労士連合会のWebsiteに載ってます。)を例にして、社労士法の条文を事実に当てはめながら、答えを導き出す説明をします。

 まず、社労士連合会が公表している第1回第2問の出題の趣旨は、次のとおりです(抜粋します。)。これを読んだだけで答えが書ける人はすごいなあと思いますが、大抵の人は無理でしょう(私も無理でした。)。

 小問(1)及び(2)

[出題の趣旨] 

 社会保険労務士法第22条は特定社会保険労務士が行いえない事件を定め   ているが、本問は、主に同条第2項の理解の程度を問う倫理の問題である。

 ここでは、同項が定められた理由、「協議を受けて賛助する」ことの意義、そして、同項については、受任している依頼者の同意があっても、代理業務ができないと定められていることなどについての正確な知識と理解が求められている。

 

 続いて、社会保険労務士法(以下「法」という。)第22条は次のとおりです(問題文には条文の引用はありません。)。同条のうち、本文でその適用のあり方を問われているのは、第2項第1~3号(太字の部分)です。さらに、「協議を受けて賛助する」ことの意義、について問われています。実は、法第22条の解釈については、能力担保研修の第16回(令和2年度)特別研修 グループ研修・ゼミナール研修教材のP116-118に=社会保険労務士法の解説(抜粋)=として書かれています(法全部はP83-115に記載)。この解釈を法第22条の下に掲げます。

 

(業務を行い得ない事件)

第22条 社会保険労務士は、国又は地方公共団体の公務員として職務上取り扱った事件及び仲裁手続により仲裁人として取り扱った事件については、その業務を行ってはならない。

2 特定社会保険労務士は、次に掲げる事件については、紛争解決手続代理業務を行ってはならない。ただし、第3号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。

1.     紛争解決手続代理業務に関するものとして、相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件

2.     紛争解決手続代理業務に関するものとして相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの

3.     紛争解決手続代理業務に関するものとして受任している事件の相手方からの依頼による他の事件

4.       開業社会保険労務士の使用人である社会保険労務士又は社会保険労務士法人の社員若しくは使用人である社会保険労務士としてその業務に従事していた期間内に、その開業社会保険労務士又は社会保険労務士法人が、紛争解決手続代理業務に関するものとして、相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件であって、自らこれに関与したもの

5.       開業社会保険労務士の使用人である社会保険労務士又は社会保険労務士法人の社員若しくは使用人である社会保険労務士としてその業務に従事していた期間内に、その開業社会保険労務士又は社会保険労務士法人が紛争解決代理業務に関するものとして相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるものであって、自らこれに関与したもの

(用語の解説)

  • 「相手方」―――――――外形的に紛争があるように見えても、当事者間に実質的な争いがない場合は、相手方にあたらない。
  • 「協議を受けて」とは、具体的事件の内容について、法律的な解釈や解決を求める相談を受けることをいう。したがって、単に話を聞いただけであるとか、立ち話や雑談の域を出ないものであって、法律的な解決にまでは踏み込まないものについては、ここでいう「協議を受けて」にはあたらない。
  • 「賛助」とは、協議を受けた具体的事件について、相談者が希望するような解決を図るために助言することをいう。内容としては、相談者に対して事件に関する見解を述べたり、とるべき法律的手段等を教えることである。したがって、相談者の希望しない反対の意見を述べた場合等には、ここにいう賛助にあたらない。

 小問(1)は、特定社労士甲は、過去にX市の無料相談会労働者Aから、勤務先のB社から労働条件の切り下げを受けたので、その件でB社を相手にあっせんを申請するためのあっせん申請書に記載すべき申請内容や手続について協議し、指導したのだけれど(労働者Aから代理行為の受任はしていない)、後日、当該紛争について、相手方のB社の代理人になることはできるか?を問うています。

 法第22条2項1号が適用になって紛争解決代理業務を行ってはならない事件に該当するか?が論点です。この場合、労働者Aは、一方的労働条件切り下げという紛争(事件)の相手方当事者であり、「相手方」に該当します。労働者Bの無料相談会での特定社労士甲への相談内容は、当該紛争解決のためのあっせん申請書の内容や手続について協議して、甲はBに指導した(甲は、申請に反対せずむしろ申請を手伝った。)のですから、甲はBから「協議を受けて」、「賛助した」と言えます。よって、本件B社からの依頼は、社労士法第22条第2項第1号に該当するので、受任できないとなります。

 私としては、この小問(1)の事例は、同法同条同項第2号にも該当する可能性があると思いますが、150字という字数制限の中で、そこまで議論すると字数オーバーになるかな?と思い悩むところです(2号適用の可能性について議論しなくても合格点は貰えると思います。)。

 小問(2)は、(1)と同様の状況で、特定社労士甲が、労働者Aの同意を得たら受任できるか?と、さらに問いかけています。同法同条同項第1号には、「相手方(ここではA)の同意があれば受任できる」とは定められていません。一方、「相手方の同意があっても受任できない」とも定められていません。相手方Aが、「気にせずB社の代理人になってください。」と言ったとして、やっぱり、目の前の依頼者(B社)の代理人になってはいけないのか?が論点です。そこで同条同項ただし書を見ます。「ただし、第3号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。」と書かれています。これは同条同項第3号の場合には、「利益相反のおそれのある当事者の同意があれば、受任しても構わない。」、と言ってくれています。裏を返すと、同法同条第1号と第2号の場合は、「利益相反のおそれのある当事者の同意があっても、受任してはならない。」と言っていると解釈することになります。したがって、本問では、「仮に労働者Aの同意を得たとしても、B社の代理人になることはできない」と法律の条文が明確に禁止しているので、受任できないと答えることになります。

 倫理事例の問題を解くにも、法律の条項の解釈が要り、その解釈した条項の意味に事実を(評価して)当てはめて、その効果を見るという作業があると言うことが、理解いただけたでしょうか。私は、「本人同意」はオールマイティに近くて、「本人同意を得て、しかも特定社労士が同意した者を害さずに仕事ができると考えるなら、どんな場合でも受任できる」と法の条文に定めておくべきだとは思いますが、現実は、そうなっていません。そこのところが、この倫理事例の解き方を難しくしているのではないか?と思う今日この頃です。

 で、ここまで読まれたら、第1回特定社労士試験の過去問を見て、実際に第2問の回答を紙にボールペンで手書きしてみてください(字数制限を守って。)。まず、何(キーワード等)をどの順番で、どのような接続詞を使って書けば、出題者の意図に沿った回答になるかです。そう簡単には書けないと思いますので、次回、答案の書き方を説明します(当時は、たった1条の解釈で解けたのか?羨ましいなあ、とは考えないでください。)。

 ところで、情報提供です。ご存じの方には、余計なお世話かもしれません。大阪府社会保険労務士会会誌ザ・えすあ~る2021年3月号のP73に「あっせん室バーチャル見学体験」という特定社労士特別部会の研修動画が配信されていますとの記事があります。特定社労士の仕事の一端が見られる貴重な機会なので、是非、観てください。同誌に案内が載っている厚生委員会主催の菊池幸夫弁護士によるオンライン講演会(動画)も、なかなか興味深い内容(刑事裁判がメイン)でした。大阪府の会員でない方は、お知り合いの大阪府の会員の方に見せてもらってください(一見の価値は、あると思います。)。

特定社会保険労務士の仕事とは?

 Wikipediaで、「特定社会保険労務士」を探していただければ、説明が載っています。良く書かれていますが、データが古いのが難です。

 特定社会保険労務士は、個別労働関係紛争の当事者が、都道府県労働局の紛争調整委員会や民間ADR機関にあっせん申請等を行う場合(また、あっせん申請等の相手方となった場合)において相談に応じ、また代理人として代理業務を行います(特定でない社会保険労務士にはできません。)。なお、個別紛争解決手続代理業務には、紛争解決手続と平行して行われる和解交渉、和解契約の締結が含まれますが、特定社会保険労務士であっても、紛争解決手続の開始前に、代理人となって事前交渉することは認められません。ここで代理業務を受任できる事件とは、次のとおりです。

 

  • 個別労働関係紛争解決促進法に基づき都道府県労働局が行うあっせん手続の代理
  • 男女雇用機会均等法に基づき都道府県労働局が行う調停手続の代理
  • 育児介護休業法に基づき都道府県労働局が行う調停手続の代理
  • 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律に基づき都道府県労働局が行う調停手続の代理
  • 個別労働関係紛争について都道府県労働委員会が行うあっせん手続の代理
  • 個別労働関係紛争について厚生労働大臣が指定する団体が行う裁判外紛争解決手続の代理(紛争価額が120万円を超える案件は弁護士との共同受任)

 

 太字にしておいた部分を見ていただければお分りになると思いますが、上の5つは行政機関が行う手続で、最後の1つが、民間(社会保険労務士会等)が行う手続です。これら以外にも司法(裁判所)が行う労働紛争解決システムがあり、訴訟や仮処分以外に、特に最近申立件数が多くなってきている(平成18年4月から運用が開始された)労働審判制度があります。残念ながら、いまだ、特定社会保険労務士であっても司法の場への参入はできておらず、これらの手続の代理業務はできません。

 特定社労士試験の倫理事例問題では、通常、社会保険労務士法第22条2項各号に定められた依頼者の仕事を受任できない場合への該当性から、他の条項等を考慮しながら受任の可否とその理由を検討していくのですが(この解法のテクニックについては後日解説します。)、第9回(平成25年度)は異質な論点が登場しています(他にも派遣社員の派遣先・元との関係、完全親子会社の一体性などの例もあります。)。それは、弁護士法第72条に定められた非弁活動の禁止と特定社会保険労務士の受任の可否の問題です。

 この過去問は、特定社会保険労務士社会保険労務士法の定めや倫理規範によって、受任を断るべきか否か、という問題以前に(入り口の手前で)弁護士法で、受任が禁止されている場合に該当しませんか?と問うています。倫理事例の問題が、だいたい同じパターンになってきたので、今後この種の問題が出題されるようになるかもしれない(既に1回でていますが)ので、要注意です。社会保険労務士法を知っているだけでは解けませんから。

 ちなみに、この弁護士法第72条の論点については、神奈川県弁護士会Websiteに「4 弁護士と社労士の違い」というQ&Aが載っていますので、それを見ていただければ懇切丁寧に解説されています。これです。↓

http://www.kanaben.or.jp/profile/lawyer/lawyer04/index.html

 

さらに、茨城県社会保険労務士会Websiteに、「社労士と社労士制度 よくある質問(Q&A FAQ)」というタブがあり、そこに次のQが載っています。

社会保険労務士は、例えば労働者の賃金未払い等の問題について労働者から依頼があった場合に、労働者と共に、あるいは単独で事業所に行って、労働法関係の専門知識を生かして事業主に対し賃金を払うように主張、交渉等をすることはできますか。」

Aは、ご自身でお確かめください。→ https://www.ibaraki-sr.com/FAQ

 余談ですが、「活用しよう 労働委員会 理論と実践 Q&A」大阪労働者弁護団・編 耕文社、という本を図書館で借りてきて読みました。これは上記の手続の4番目の労働委員会による不当労働行為救済手続(要するに、労働組合活動に対する不当労働行為に関する紛争がメイン)について、申し立ての仕方から、戦い方から、和解の仕方まで(その他諸々)について、実務的に解説されていて非常に興味深く読みました。しかし、皆さんの特定社労士試験の受験には、ほとんど関係ないと思われるので、今はお薦めしません。実務で要るときが来たら読んでください。2007年の初版から改訂されていませんので、もし、将来読まれるなら改訂版が出版されているかどうかを確かを確かめてください(老婆心ながら、爺ですが。)。

第16回(令和2年度)特定社労士試験能力担保研修の反省

 第17回(令和3年度)に能力担保研修を受けて受験する方が、効率的に勉強のスケジュールを立てるために、第16回(令和2年度)のスケジュルール等を記しておきます。その後、私の経験とその時の反省に基づいて、受講する際の注意点を書きます。

<スケジュール等>

① 月刊社労士で、特定社労士試験の案内の記事を見つけて資料請求し、特別研修の申  込をしました。月刊社労士令和3年3月号には、まだ案内の記事が載っていません。月間社労士に気を付けていてください。

② 特別研修(受講料85,000円)、申込受付期間 6月15日(月)~6月29日(月)当日消印有効でした。内容は、中央発信講義(e-learning) 計5時間8科目、9月4日(金)~10月2日(金)で、8月下旬に教材等が発送されてきました。

③ グループ研修(集合研修)計18時間2.5日、10月10日(土)10:00-17:00、11日(日)10:00-17:00、 17日(土)10:00-17:00 天満研修センター 約10名で12グループ(計約120名)、チューターは特定社労士でした。

④ ゼミナール(集合研修)計15時間3日、11月20日(金)10:00-17:00(申請書・小問3.4.5)、21日(土)10:00-17:00(答弁書・小問1.2)、28日(土)10:00-13:00(倫理) 天満研修センター 1クラス約40名3クラス、教官は弁護士でした。

⑤ 紛争解決手続代理業務試験(受験料15,000円)、11月28日(土)14:30-16:30(集合14:00) 天満研修センター、再受験組も参加して講堂で実施されました。大阪会場の合格者数が100名なので、合格率61.9%から逆算すると、全部で160名前後の受験者数だったのかと推測されます。とすると再受験者が40名前後かなとは思われますが、正確には分りません。

<受講する際の注意点>

 まず、A4で約530ページの「特別研修 中央発信講義 教材」(以下「本テキスト」という。)が8科目30.5時間のビデオの教材になるのですが、各科目のビデオを見る前に、必ず、先に本テキストを読んでおいてください。(予習せずに)ビデオを流しながら本テキストを読んでも、ほとんど理解できないと思います。何故なら、憲法民法などの馴染みのない科目はもちろん、労働基準法や労働契約法に関する科目も、弁護士講師による条文や判例の解釈論などの説明が多くて、じっくり考えないと理解できないからです。本テキストだけでは、情報・知識の質・量が不足すると思われますので、それを補う民法と労働法の教材等については、また、後日説明します。

 ③のグループ研修では、A4で約160ページの「特別研修 グループ研修・ゼミナール教材」(以下「本教材」という。)を使います。第3日(最終日)には、本教材の設例1(あっせんの申請書)と設例2(あっせんの答弁書)をグループ全員で協力して作成し、チューターのサインをいただいて、ペーパーで事務局に提出します。私(たち)は、この話を第1日の朝、チューターから聞かされて、誰もそんなつもりで予習(答案のたたき台を作ってくるどころか、読んでもいない)をしていなかったので、グループ研修中で大枠の話をして、後は、分担して書いて、毎夜、メールやLINEやZoomで意見交換しながら、なんとか一週間で仕上げて提出しました。まじめに論点を整理して、要件事実を一つ一つ拾い上げて主張や反論をしていくと、1つの答案が10ページぐらいになるので、ワープロを打つだけでも大変です。是非、事前の準備を怠らないでください。併せて、本教材のグループ研修検討用課題が第1から第5まであって、これについてもグループ研修中に議論をすることになるので、予習をしてください。昨年は、このような親切な予告がまったくなかったので、慌てふためいた記憶があります。しかし、研修の二日前に嫌な予感がして、急遽、検討用課題5問について、一応回答案を書いていきました。グループのメンバーは、答案作成に追われていたので、初日の夜、私の手書きの回答案をワープロ打ちして、メンバーに回して、検討(議論)はことなきを得ました。

私は、完全にこの試験を甘く見ていました。合格率50%-60%の試験だから、ビデオを観てグループ(集合)研修に出席しさえすれば、能力担保は楽勝で、試験に合格するところまで、チューターや教官が引っ張って行ってくれるだろうと高を括っていました。本年、研修を受けられる方は、くれぐれも事前の準備を怠らないでください。

申請書と答弁書の答案の書き方についても、答案の求められる姿に関する情報提供が不十分で(自分で調べて考えなさいということみたいです)、最初の時点では、答案の完成形がまったく想像できず、メンバーで相談して、とにかく論点と要件と要件事実を全部書けるだけ書いて、後で削って体裁を整えるという作戦で臨みました。私は、申請書や答弁書を読む仕事をしてきましたし、現在もそのような仕事をしているので、一週間でもなんとかゴール出来るだろうと冷静に受け止めていましたが、申請書や答弁書を見たことのない人は、面食らったと思います。

 本教材の後半には、倫理の設例と関連する法令や倫理規範の条文が載っていますが、こちらは、④ゼミナールの最終日の午前中にやりますので、集合研修の時点では予習する必要はありませんでした(私は、これも予習していきましたが。)。ただし、この倫理の部分は本番で30点の配転と10点の足切りがあるので、試験対策としては、早く勉強を始める必要があります(この勉強の仕方については後日述べます。)。

 私は、10月10日のグループ研修の初日まで、過去問も見たことがなく(完全に甘く見ていましたから)、当日、グループのメンバーに、8月5日に発行された河野順一さんの「特定社会保険労務士試験過去問集 第16回(令和2年度)対応版」日本評論社を紹介してもらって、やっと過去問に触れることが出来ました。最も易しいはずの、第1回を解いてみて、「今のままでは答案が書けない」と自覚し、その過去問集を解きながら、徐々に勉強用の教材を整理していきました。直接の試験対策としてお金を出して買った教材は、この本1冊でした。恥ずかしながら、試験の合格発表があった社会保険労務士連合会のWebsiteに、全部の過去問とそれぞれの出題の趣旨が載っているのを初めて知りました。皆さんは、できるだけ早く、社会保険労務士連合会のWebsiteをチェックして、併せて、回答の解説が詳細な河野順一さんの本を買うのを忘れないでください。ただし、その本に書かれていることがすべて正しいとは限りませんので、そこはご自分の学力を上げて、ちょっと斜めから解説を読めるようになってください。

 次回は、来週末に、民法と労働法の勉強方法について書きます。

 

 

 

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