TokuteiJuku’s blog

特定社労士試験の勉強と受験

第20回(令和6年度)特定社会保険労務士試験に向けて

 昨年度の奥田塾生は、全員がリベンジ組でした。受験者数の漸減傾向から見ても、どうも最近は、初受験の人は減って、受験数の過半数がリベンジ組じゃないのかと考えています。とは言え、このブログの読者には初受験の人もおられるので、まず最初に、私の経験を交えた、この試験への取り組み姿勢について書きます。昨年度と変わることがないので、以下、昨年度(2023.4.15)の記事をそのまま貼ります。なお、過去問の解説等の情報については、(考え方の変化や誤記・誤植の訂正などのため)本年度も見直しを行いますので、「はてなブログ」の昨年度の記事は、ほとんど消しました(悪しからずご了承ください。)。

 

 

「第19回(令和5年度)特定社会保険労務士試験に向けて」

 私が、特定社会保険労務士試験を受験したのは、第16回(令和2年度)でした。社会保険労務士のみが受験資格を有し、受験者数が1,000人前後、合格者数が500人前後、合格率が50%前後で、合格してもほとんど仕事はないという極めて特殊な資格試験で、受験の前提となるいわゆる能力担保研修(ビデオ研修、申請書・答弁書の作成などを目的とした集合研修、ゼミナール研修)を受講してみても、一体どのような出題がなされて、どのように解答を書けば良いのか、さっぱり分らないという状況でした。

とりあえず、集合研修の仲間に教えてもらった河野順一さんの過去問集を買って、過去問を2回解いてから(紙にボールペンで回答を書いて)、自分なりの傾向と対策を立てました。

第1問(労働紛争事例問題)については、小問(1)対策として、民訴法の訴状の書き方を復習(私は法学部卒で企業法務を長く担当していましたから)しました。特定社会保険労務士試験では、「訴状のように書きなさい」と指示されているのですが、労働紛争の特殊性に加えて、調停・あっせんの柔軟性から、実際問題、民事訴訟法が適用になる訴状よりは、かなり実態に則した具体的な請求の内容の書き方認められる(処分権主義とかうるさいことは言わない)のだな?と気付いてからが大変でした。後々詳しく説明しますが、「不当解雇されて働いていない期間の賃金を満額請求出来る根拠が危険負担の債権者主義に基づく」とか、「解雇無効を請求するのではなく雇用契約が継続していることを確認する」という現在の権利の存在の確認訴訟しか許されないとか、民法と民訴法のしっかりした知識がないと理解できないような解答を(憲法民法、刑法などの基本法を勉強していない)社会保険労務士に求めていることに、驚きを覚えました。率直に言わせていただくなら、能力担保研修の内容にしても特定社会保険労務士試験の出題内容にしても、社会保険労務士憲法民法、刑法、商法(会社法を含む。)、民訴法の少なくとも基本的な知識を有しているという虚構(錯覚)の上に組み立てられているのではないかと疑っています。

小問(2)~(4)は、いわゆる法的三段論法(規範定立→事実の当てはめ→結論)で回答を導き出す過程を問われていると受け止めて、過去に出題された論点を洗い出して、それを解くための規範(例えば、整理解雇の4要素、解雇権濫用法理など)を書き出して記憶をし直すという作業をしました。

小問(5)は、ここ数年労働者Xの立場から見た実際的な和解案を書くことが求められていますが、小問(4)の法的判断の見通しをX有利とするか使用者Y社有利とするかで内容がまったく変わってしまう(小問(4)の解答と小問(5)の解答が連動している)ということと、設例に書かれた情報(伏線)の中に当事者が和解の線(譲歩の限界)みたいなものを見落とさないことに気を付けるべきというぐらいを意識していました。

第2問(倫理事例問題)は、最初、そもそも受任できるか否かの判断基準に何を用いるのかで悩みました。COI(Conflict of Interest):利益相反関係のマネージの問題と守秘義務違反の回避の2点は、容易に想像がついたのですが、これらを社会保険労務士民法等の知識で書くとなるとさっぱり分りませんでした。仕方がないので、能力担保研修の教材として送られて来た冊子に書かれている社会保険労務士法の条文とその解説、社会保険労務士倫理綱領、都道府県社会保険労務士会倫理規程準則などを熟読して、「そうか、これらを使って判断して、理由を書くのか」と気付いた次第です。社会保険労務士としての「公正・誠実・信用・品位」を損なう行為の禁止という観点からの評価(判断)が必要と言うことも、ここで気付きました。

第2問(倫理事例問題)は、独特の世界観(ちょっと大げさですが)で組み立てられていると思います。よって、真面目に法律の勉強をされてきた受験生にとっては、訳の分らない世界に迷い込んだような気になると思います。しかし、これもやっぱり法的三段論法で解くことに変わりはなく、規範となる社会保険労務士法等の限られた条文を暗記して、短い問題文に書かれた事実を的確に読み解いて規範に上手く当てはめて、結論を導く(受任できるか否か)を、250文字以内で、簡潔に書く訓練をすれば、第1問より易しいと当時は思いました。今でも、私は、第2問は易しいと考えています。ちなみに第1問の配点は70点、第2問の配点は30点で、合計100点満点の55点前後が、合否のボーダーラインになります。

さて、これから11月下旬の試験本番まで、長い道のりになるのですが、受験勉強のマイルストンとしては、①月刊社労士(5月号ぐらい)で特別研修(能力担保研修)の受講生募集のタイミング、②(再受験生の)受験申込みのタイミング、③ビデオ研修始まり(9月上旬頃)のタイミング、④集合研修の始まり(10月上旬頃)のタイミング、⑤集合研修の課題答案2通提出(10月下旬頃)のタイミング(残り4週間程度)があり、それぞれのタイミングで勉強のやり方(教材も?)を変える必要があると思います。

初受験の方は、特別研修の申込みをするまでは実感が湧かないでしょうし、再受験の方も、夏ぐらいまではやる気が出ないでしょうから、4月中は、法律の基本書で、憲法民法、刑法の基礎を勉強していただきたいと考えています。次回から基本書の紹介記事を書きます。

本年度は、ブログの記事で使う基本書を具体的に指定します。このブログを読みながら受験勉強をされる方は、指定された基本書を購入して熟読してください(私への著者からのキックバックなどの利益還元はありません。)。

過去のブログの記事には、基本書からの引用をたくさん書きましたが、私にとって時間的負担が大きいのと基本書中の一定の塊の文章を読まないと理解が進まないので、本年度のブログの記事は、受験生が基本書を読める状態にあるという前提で、具体的なページを示して、私の解説や意見を記事に書くというスタイルで進めます。

余談になりますが、私が第16回試験の能力担保研修を受講したときの体験談を2つ書きます。

まず、約10名の受講生のグループで、あっせんの申請書と答弁書を書いて提出する集合研修を受講したとき、おそらく法律の勉強したことのないメンバーが半分以上の中、それでも、ああでもないこうでもないと議論をしていたとき、一人、「何をそんなに議論しているのか?答えはこうに決まっているではないか!」と的外れな意見を言って、せっかく盛り上がっていた議論に水を差した受講生がいました。ここでは、こういう論点があって、何を議論しているかについて説明をしてあげても、その受講生にはまったく理解できないようでした。その受講生が、大事そうに真新しい労働判例百選を抱えていたのを覚えています。何を言いたかったかというと、法律の基礎的な勉強を終えているという(虚構の)前提で作られた研修と試験ですから、(その前提(虚構)を乗り越えるために)法律の基礎から勉強しなければならないのに、その基礎の部分を省いて、いきなり判例集を読んでも、何も理解できず身につかないのに、(自分は賢いので)そのような省エネの勉強の仕方で十分に受験勉強が出来て合格できるという勘違いをしないで欲しいと言うことです。法律の勉強は、そのような生やさしいものではなし、いきなり上級者のような勉強をしてみても何も身につかないということを肝に銘じておいて欲しいのです。

もう一つ、最後の2.5日にわたるゼミナール研修の初日の朝、申請書と答弁書を書いた各班員がタテに並んで座っていて、(別の班に属する)私の左の列のスグ隣の受講生とその前の席の受講生の会話を聞いていて、開いた口が塞がらなくなりました。私の隣の受講生は、真っさらの中央発信講義の教材を机の上において、「ビデオは流しっぱなしにしていれば受講したことになるので、テキストは全く読んでいない。この試験は記述式らしいからボールペンを持参したが、過去問は一度も見たことがない。一体、どんな試験なんだろう?」と言ったのです。その前の席の受講生が、「ワシも過去問を見たことがない。そんなものがあったら便利がいいやろうなあ。一体、どんな試験なんやろう?」と返事をしていました。この班の受講生は、受験勉強のための情報交換をしなかったのだろうか?この二人は合格する気がないのだろうか?まったく、このような受験態度では(少なくとも今回は)合格できないだろうと考えたのは言うまでもありません。

ちなみに、社労士連合会のWebsiteにすべての過去問のPDFが掲示されていますから、まずはそれを見てください。それと、最終的な試験が、手書きの記述式なので、実際に、紙の上に字数制限に従った答案をボールペンで手書きするという訓練が絶対に欠かせないと言うことも肝に銘じておいてください。試験会場で問題文を見てから答案の書き方を考えている暇はありません。事前に、(自分なりの)出題形式に応じた答案(解答)の書き方を確立してマスターして本番に臨まなければ、とても2時間では解答しきれない試験だからです。

最後に、言っておきます。特定社会保険労務士試験は、記述式の民法、民訴法、労働契約法、社労士法等の法律の試験です。例えば、労働基準法の条文を覚えるだけでなく、なぜこう書かれているのか?この判例の射程範囲はどこまでか?射程範囲から外れたらどう処理するのか?まで勉強が必要です。社会保険労務士試験のような行政法を丸暗記したら臨めるマークシート試験とはまったく違います。司法書士行政書士の受験を経てきた受験生を除いて、まったく未知との遭遇になるものと思われます。省エネで要領よく勉強すれば合格できる甘い試験ではありません。「自分は合格率6%の社会保険労務士試験に合格したのだから、合格率50%の特定社会保険労務士試験なんか楽勝だ!」と勘違いしないでください。合格率6%の試験を突破した人たちが半分落ちる試験なのですから(しかも最近は怖がって受験を回避する社労士が多いのですから。)。約半年、真剣に勉強する気のない人は、受験をお薦めしません。研修費用の8万5千円と受験費用の1万円がムダです(金額は正確ではありません。)。合格しても、個別労働紛争解決代理業務の仕事は滅多にありませんが、社会保険労務士の上位1/3以内に入っているという肩書を得るということの意義は大きいと思いますので、「我こそは」と考えられる強者には、是非、挑戦して合格していただきたいものです。

本年度も、ブログの記事は、毎週土曜日の午前零時に公開する予定です。

(第20回向けのブログの記事は、出来るだけ、毎週、金曜日か土曜に公表するように努力しますが、確約はできません。悪しからずご了承ください。)

 

追伸

 特定社会保険労務士試験は、どうも歪(イビツ)だなと考えています。個別労働紛争の解決手段としては、内容・手続が厳格な順番から、民事訴訟労働審判、民事調停(以上、裁判所)、行政ADR厚労省関係)、民間ADR(社労士会、司法書士会など)などが考えられます。そして、これとは別に私人間での和解と前述の手続中での和解が考えられます。

特定社会保険労務士は、行政ADRと社労士会ADRで代理ができたり、社労士会ADRのあっせん委員になったりする訳ですが、本来なら、能力担保研修で、これらの制度との違いを意識した内容・手続であるべきとの(よってこのような申請書・答弁書をし、主張・立証を行うべきとの)基準なり手順を示したうえで、例えば、和解交渉の仕方や和解契約書の書き方まで指導して、試験でその点も試すべきと思うのですが・・・。

個別労働紛争の解決の一翼を担うなら、全体像を俯瞰したうえで、実務の細部までキッチリ教えて試験するというシステムにしないと、特定が付記された社労士であっても、どうも中途半端で使い物にならない人が多いなと感じています(あくまで個人の感想です。)。

例えば、増田勝久(弁護士)・古谷恭一郎(裁判官)著「和解の基礎と実務」有斐閣2022年11月28日初版第1刷発行には、P93-121「第3章 和解条項」に、和解条項として、給付条項、確認条項、形成条項、付款条項、清算条項などが挙げられていますが、能力担保研修では、これらについてまったく触れられていません。和解交渉のやり方も和解契約書の書き方も教えてもらえません。

余談ですが、同書P252―268「第5 労働関係事件」中に「3.配転命令無効確認請求事件」という箇所があり、配転命令の無効を争う事件の説明が的確で分かりやすく書かれています。受験勉強を始めたばかりの人には何を言っているのか分からないかもしれませんが、例えば、「何年何月何日付けの配転命令は無効であることを確認する。」とは書かないで、「原告が勤務場所を被告A支店とする労働契約上の地位を有することを確認する。」と記載されていて、民訴法のルールに従えば、(違法な配転命令を出してしまったという過去の事実を確認することはできないから現在の事実を確認する)こう書くべきだということが明確にされています。

 閑話休題。このような具合だから、民法、民訴法、労働法などをしっかり勉強してきた受験生が、一体、個別労度紛争解決制度の全体像の中で、どの部分を問われていて、どのルールを使って、どのように解答したらよいのか分からないと嘆くのはもっともだなと考えています。